メイクセラピーで「安田成美様になりたい」と熱弁、自分語りの恍惚こそ美の極意か
美しくなりたい――世の女たちの狂おしい思いを、「42歳、ゲイ、汚部屋に一人暮らし」の漫画家・大久保ニューが担ぎ込む! 古今東西あらゆる美容法に食らいつき、美を追い求める女の情念まで引きずり出す――
突然ですが、みなさんに質問をさせていただきたい。まっさらな素の状態になって答えてください。いいですか? いきますよ?
「あなたは、どんな人でありたいですか?」
よっぽど自己啓発慣れしていないと、すぐさま返せないと思いませんか? 「どんな人……?」問いつめすぎたらゲシュタルト崩壊を起こしそうな質問と、私は目黒区の高級住宅街にあるメイクセラピーのサロンで向き合っていた。そう、これはメイク前のカウンセリングでの最初の質問なのだ。
今回の取材先はメイクセラピー&カラーサロン「ムーンカラー」。「メイクセラピー」とは、心理カウンセリングを取り入れたメイクアップ技法らしい。メイクセラピーの流れは、まず「どんな人でありたいか」を探る「オーダーカウンセリング」から始まり、先生による半顔のメイクアップ、左右半顔ずつのビフォー&アフターを見比べながら自分と向き合う「メインカウンセリング」、残りの半分を自分でメイクし、最後に疑問や不安などを先生と一緒に解消していく「フォローカウンセリング」を行う。メイクセラピストである塩月美香子先生はクールなルックスで、優しい声の美人。もちろん美肌だ。
冒頭の質問への、悩みに悩んで出した私の答え「ゆとりのある人間になりたいです……」に対し、「ゆとりがあるって、どういう状態のことですか?」と優しい声で質問される。あれ? ……自分に合うファンデーションを探しに来ただけのつもりが、己を掘り下げなくてはいけないのですね……。テーブルの上のハーブティーに冷や汗が落ちた。ピトーン……
本当は「年齢マイナス7才肌にしてください☆」くらいのレベルの願いしかなかった浅はかな私だったが、思わぬ深みにハマってしまった。カウンセリングが始まってすぐに「もっと、お金がほしいです!」とか話している。やだ! もっとガーリーなこと言いたいのに! なのに、「お金があったら、何をしたいですか?」という先生の巧みな質問に導かれるまま話は流れ、気づけば「読者の深読みを期待して、意味有りげな言葉だけで並べて何も訴えてない作品を見ると、殺意がこみ上げるんです!!」とか涙目で叫んでいる私……。同席していた担当編集のJ子が「アンタ、美から急速に遠ざかってるよ!?」と目で訴えているのがわかった。でも、この想い、止められない!
白熱した自分語りの後は、「自分のキャッチフレーズを決めよう☆」コーナー。カウンセリングの結果「もっと高いポジションで愛されたい」ということになった私は、永遠の憧れ顔である安田成美様にあやかろうと、「江古田の真夏姫」というキャッチフレーズを考えた(成美様の『真夏姫』(講談社)という写真集があるのです)。「『江古田の真夏姫』になれたら、どんな気分ですか?」との先生からの問いに、心から「何をしても愉快な気分です☆」と答える私。己の願望を語りまくった後の高揚感で、すでに真夏姫になれたような気分だよ☆