大久保ニューの【美のぬか床】 第1回

浅野温子様に憧れて……「ゴムパック」で露わになった私の“毛の穴”

2013/02/07 21:00

美しくなりたい――世の女たちの狂おしい思いを、「42歳、ゲイ、汚部屋に一人暮らし」の漫画家・大久保ニューが担ぎ込む! 古今東西あらゆる美容法に食らいつき、美を追い求める女の情念まで引きずり出す――

 はじめまして☆漫画家の大久保ニューです。この度、サイゾーウーマンにて 「美容」についてのコラムを書くことになりました。42歳、ゲイ、汚部屋に一人暮らし……およそ「美」から遠い存在の私ですが、十代後半か らの長いつきあいである顔面アトピーのせいで、「美容」に対しては「ドドメ色な情念」を持っております。このコラム上で解毒するかのごとく、ブリュブリュ排出してゆこうと思いますので、みなさま、よろしく申し上げます!

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 と、固い挨拶が済んだところで、先日の話である。銀座にて『阿修羅のごとく』を観劇してきた。かの向田邦子ドラマの演劇版だ。まさに「阿修羅」のごとく、時に泣き、笑い、争い合う4姉妹の物語は、長女役に浅野温子、次女が荻野目慶子、三女が高岡早紀で、四女が奥菜恵というキャスティング。おまけに母親役は加賀まりこ様! 「業の深そうな女優」の特盛り状態だ。しかし、どの女優さんも、女の悲哀を見事に演じきっていて、「女ドラマ」が大好きな私は大満足だった。

 中でも浅野温子様の「女性らしい女」という役は、とても新鮮に感じた。考えてみると、「私の脳内のWikipedia(ニュー ペディア)」で、温子様の解説は「不気味な空気を醸し出す異形女優」となっている。バブルの頃は「憧れの女性」というポジションだったのになぜ……? 原因は、数年前にテレビで見た『古事記』の読み語りのインパクトが強すぎたせいだ。神社の巨木の前で1人、目を見開きながら熱演する温子様は、「お気を違われてしまった方」 という感じで、見てはいけないものを見てしまったような恐怖を覚えたものだった。

 そして、最近の温子様といえば、ブログだ。「御パック」だ。シートマスク使用時の御尊顔が並ぶ、あのブログを見た時の衝撃は相当なものだった。ただでさえシートマスクというものは、使った誰しもを映画『犬神家の一族』に登場するスケキヨのような不気味な存在にしてしまうというのに、ブログ上で、温子様の御パック写真は、なぜかすべて横向き。予期せぬ方向から突然、殺人鬼が現れたような恐怖に襲われる。「憧れ」だった女性が「鬼」にまで印象が変わるだなんて……。しかし、そんな温子様が舞台上では、とても女性らしい強さと切なさを表現されていて、私は畏敬の念を抱かずにいられなかった。なんて優れた女、つまりは、なんて女優! と。


 観劇後、ホクホクした気持ちで新大久保へ。温子様効果で「新しい御パックを買わなくちゃ☆」という気分になったのだ。お目当ては「ゴムパック」。友人が「すごくいいよ~☆」と勧めていた韓国コスメだ。それにしても新大久保という街は、コスメやエステ、韓流アイドル(私は大国男児ファン☆)や韓国料理を求める、あらゆる世代の女性で大にぎわい。お目当てのゴムパックである「もちもちパック」は190円だったのだが、ほかにも色々買い込んでしま い、財布は空っぽ。街に渦巻く女の欲望に共振してしまったみたい……。

 さて本番。ゴムパックは粉末。水に溶いてかき混ぜると、もっちりとしたテクスチャーになる。説明書に「スパチュラで混ぜる」とあるけれど、スパチュラ……ヘラなんて料理用のゴムベラしかなかったので、私はカップアイスのスプーンでかき混ぜることに。なんだか、お菓子の「ねるねるねるね」にしか見えない……。かなりの量、サラ・ジェシカ・パーカーの顔でも余裕な量のパックを顔に塗るのだが、いかんせんアイスのスプーンじゃムリ。手で塗ってみたら、指の跡だらけのデロデロな顔になってしまった。スケキヨを超えて、ゾンビ顔! この顔でアメリカの街を歩いたら撃ち殺されそう!!

 高岡早紀の歌を聞きながら20分のパックタイム終了。パックの表面は、まさに ゴムのような質感。ウキウキしながらアゴの部分から剥がしてみた。そう、私は「ゴムパック」と名前を聞いた時から、この瞬間が楽しみだった。「変装していた明智小五郎が、マスクをミョ~ンと取る感じが味わえるのでは?」と期待していたのだ。しかし、手で塗ったために厚みが均一でなかったせいか、部分ごとのカタマリでしか取れなかった。「変装マスクを取る」と言うよりは「呪いの仮面がひび割れた」という感じ。しかし、肝心の肌は、ワントーン明るくなった。毛穴の汚れが根こそぎ引っこ抜かれたようなサッパリ感も気持ちいい。 あらら、これ、いいかも☆

 やはり顔の周りにカスが残ってしまうのが残念だが、なかなかの使い心地だ。「今度は左官屋の男子に塗ってもらおうかな☆」などと考えながら、剥がしたパックの残骸を捨てようとすると……ゲゲゲ!? 肌に密着していた面が、開いた毛穴や吹き出物の痕を見事な立体で再現していて驚愕する。初めて鼻パックをして、コメドの大群に驚いた時よりダメージがデカいかも……「私の肌、こんなにボコボコなんだ……」わかってはいたけれど、指先で無数の突起を触るのは、動かぬ証拠を突きつけられたような、なんとも絶望的な感じがした。

 「こんな荒れ地のような肌からキレイになろうなんてムリだよ……」。まさに打ちひしがれた気持ちになったところへ、先ほどの舞台での台詞が蘇った。夫の浮気を知ってしまったが、黙っているのだと泣き叫ぶ次女へ母親役の加賀まりこ様が放った台詞。


「女はね、言ったら、負け」

 そうだ、弱音を言ってる場合じゃない。ただでさえ中年で、おまけにアトピー持ちの私が、こんなことでヘコんでなるものか! 現状を認識しつつ、改善するために踏ん張れてこそ、大人の女というものじゃないか(そもそも女じゃないけどな☆)!! パックの残骸を片し、鏡と向き合う。心の中では泣きたい気持ちだが、口角を上げるイメージで、保湿クリームを塗り込んだ。まさに「阿修羅のごとく」!

 ゴムパックは、シートマスクに比べたら手間はかかるけど、 イベント感があって楽しいパック。毛穴の立体図を突きつけてきたりと、怖い面もあるけど、「最近、肌も生活もたるんでるわ~」なんて方は、己に喝を入れるためにトライするのもアリ!

 さてこれから、私の未来を「美」へと導いてくれそうなも のにガツガツと挑んでゆきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いしまーす☆

大久保ニュー(おおくぼ・にゅー)
1970年東京都出身。漫画家。ゲイの男の子たちの恋愛や友情、女の赤裸々な本音を描いた作品を発表。著書に『坊や良い子だキスさせて1』(テラ出版)、『東京の男の子』(魚喃キリコ、安彦麻理絵共著/太田出版)などがある。
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最終更新:2019/05/14 20:23
『東京の男の子』
左官屋男子待ってます☆