コラム
[連載]悪女の履歴書

「男の従者」という解釈と戦った女兵士――「東アジア反日武装戦線」もうひとつの闘争

2013/05/07 21:00

■「男の従者」という解釈と戦った女兵士

 そして、女たちの闘いが顕著となり表面に現れていくのは逮捕された後だった。逮捕時、あや子は所持していた青酸カリを飲もうとして阻止された。その後3人は完全黙秘を貫き、リーダーといわれる大道寺将司が自供した後においても、最後まで自供を拒んだのは浴田だったという。あや子もまた、取調べの際「夫に従っただけなのだろう。女として夫の言いなりになって従っただけだろう」と何度も検事に詰問されたという。情状酌量をエサに懐柔しようという検事の言葉だが、あや子はそれを肯定することはなかった。そして、彼女たちは獄中で待遇改善運動も行っている(しかし従来の生真面目さからか、拘置所では模範囚であり、挨拶もきちんとして、身の回りも清潔にしていた)。さらに75年10月の初公判、あや子と荒井は全裸騒動を起こす。統一公判を要求し、出廷を拒否すべく洋服に水をかけて全裸になり、引きずり出そうとする看守に対し、便器にしがみついたのだ。初公判出廷拒否は成功し、公判は流れた。そこにあるのは男たちに流されたわけではない、自らの意思での闘争だという強烈な自負である。

 さらに女たちは数奇な運命を辿ることになる。逮捕から2年がたった77年9月、日本赤軍による日航機ハイジャック事件が起こったのだ。ハイジャクされた日航機はダッカに強制着陸した。そこで日本赤軍は人質の身代金とし600万ドル(約16億円)を要求するとともに、日本の獄中にいる9人の釈放と彼らの日本赤軍への参加を要求したのだ。その9人の中に、あや子と浴田がいた。

 日本国政府はこれら要求を呑み、あや子と浴田は超法規的措置として釈放され、特別機でダッカへ出国する。この際、あや子の夫である将司は9人には含まれていなかった。しかしあや子は躊躇なく即答したという。両親や夫の存在を持ち出し翻意を促す看守を一蹴さえした。

 ここには爆破や逮捕といった闘争を経て、「男(夫や恋人)たちの従者」であることを否定し、体現していった“女兵士”の姿が浮かび上がってくる。

 出国した2人は日本赤軍メンバーと合流した。その後、浴田は81年に子どもを出産。そして95年3月20日、ルーマニアで潜伏していたところ身柄を拘束され、国外退去、日本に強制送還される。2002年7月4日、東京地方裁判所で懲役20年の判決が下され、確定した。現在は東京拘置所から栃木刑務所に服役中だ。

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