『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』発売!

村上春樹新刊イベント、「本の内容大妄想大会」「ハルキスト極寒に締め出し」の不条理

2013/04/12 20:00

 ようやく解禁になっても、ホールの中にはカメラマンがごった返していて、なかなか列は進まない。恐らく、1冊買っては撮影、インタビューという儀式が行われているのだろう。

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次の日、この様子がテレビに流れるのね。

 1時間、マッチ売りの少女になってみて、はっきりとわかったことがある。ここに集まったハルキストたちは、「ほら、こんなにファンが詰めかけているんです」という証明のために集められた、マスコミを喜ばせるエサに過ぎなかったのね。各種速報読んでいるけど、どれも大げさで「ふーん」って感じ。このイベントはハルキストのためなどではなく、マスコミ様のために開催されたのだ。

 Twitterを覗いてみると、多くの人が村上春樹ネタをつぶやいている。その意見は「楽しみ」と「俺は買わないけどね」の2種類。買わないなら黙ってればいいだけの話なのに、わざわざつぶやくってことは、こういう、「マスコミがあおるダンスに、俺は乗せられはしないよ」っていう証明をしているんだな。だけどね、ダンスに思いっきり乗っかって先頭にいれば、テレビや雑誌に出られるっていう特典はあったよ。

 会場の外では、整理券をもらえなかった人たちが、それでも100人以上も長蛇の列を作って並んでいた。本当に村上春樹の作品が好きな人はたくさんいるのだな。だけど、それを上回る勢いで、ブームを作ろうとするマスコミのいやらしさが目につく。カウントダウンなんかしなければ、もっと早く彼らは寒さから解放されて、目当ての本を手に入れられたはずなんだけど。ねえ、一体誰のためのイベントなの?

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延々と続くノン予約者の列。

 念のため付け加えると、筆者にとって村上春樹は大好きな作家の1人だ。昔の作品の方が面白かったとは思うけれど、夢を見るようなやんわりとした空気にはヤバい陶酔感があるし、チャーミングな言葉遣いはつい真似したくなる。出来事に身を任せて旅をするような感覚も好きだ。だからこそ、マスコミがあおる熱狂のせいで、読まずに嫌悪感を抱いてしまう人がいるのはもったいないと思う。


 でも正直、この、消費者をないがしろにする仕掛けには、相当がっかりしたので、そのまま買わずに帰ってきました。しばらくしたらブックオフに行くことにします!!

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

最終更新:2013/04/12 20:06
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
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