サイゾーウーマンカルチャーインタビューオバサンの恋愛を描いた『銀恋』 カルチャー 『銀恋』刊行インタビュー 「オバサンはいつも惨めな気持ち」末永史が描く中高年の性愛と尊厳 2012/06/04 16:00 インタビュー 『銀恋』(ワイズ出版) つげ義春らが参加した伝説のマンガ誌『COMICばく』(日本文芸社)などで作品を発表していたマンガ家・末永史(すえなが・あや)。その後はマンガ家としての活動はほぼ休止し、エッセイを中心に執筆していたが、今年4月、25年ぶりの描き下ろしマンガ短編集『銀恋』(ワイズ出版)を発表した。 『銀恋』には、50代、70代など中高年の女性の恋愛や性愛にまつわる心情が印象的に描かれている。「女の淵はどこまでも深く、老いは待ったなしなのだ」――あとがきでそう語る、もうすぐ60歳という末永氏本人にも深く関わるであろうテーマを描いた、その心中ををうかがってみた。 ――今回、25年ぶりにマンガを描こうと思われたのは、こういう作品を描きたいというイメージが先にあったのでしょうか。 末永史氏(以下、末永) 若い人の恋愛や性について描かれた作品はあっても、自分の世代より上のそういうものを描いた作品は探しても本当にない。だったら自分が描こうか、という気持ちがありました。自分の中に描きたいという切実な感情もありましたからね。 ――その「切実な感情」というのは? 末永 年齢の軸って2つあると思うんです。1つは、今何歳だという絶対的な年齢。もうひとつは相対的な年齢。この相対的な年齢に女はいつも晒されている。20歳の女の子でも、17歳の女の子に比べたら「自分は歳を取ってる」と思っていたりする。常に「私ってもう若くない」「もうオバサンなんだ」という気持ちがあるわけです。「そうは言ってもまだ若いじゃない」っていう相対性もあるんだけど、いくつであっても下の世代と比べると「もうトシだね」と思わされてしまう。そして、50歳60歳になると絶対的な「トシ」を迎える。それって、本当につらいと切実に思っていたし、惨めな思いをすることも多かった。そういう気持ちを、グチのようにマンガに描いてるんです(笑)。 ――人間的には深みを増していくはずなのに、女としての価値は歳を取るほど目減りしていくという虚しさはありますか? 末永 ありますよ。いくら人間的に経験を積もうが、そんなもの軽くぶっとぶぐらい、「オバサン」になるっていうことは人の尊厳を奪いますよね。いつも惨めな気持ちだし、女としてはゴミのように見られて、「オバサン」っていうだけで虫ケラのように扱われるんだから(笑)。 ――でも、作品を読んでいて感じたのは、歳を取るのが惨めだということよりも、外側はオバサンと見られていても、内面には豊かな女性性が広がっている女性の素敵さでした。 末永 そのあたりはせめぎ合いですよね。惨めだと思うことはあっても、希望は捨てないでいたいし、そんな女性の内面をわかってくれる男性もいるかもしれない……というせめぎ合いが自分の中であるんです。年齢的な迫害に対して「なにくそ! 負けてたまるか!」っていう気持ちもあるしね。 ――表題作の『銀恋』では、ほのかに好意を持っている男性に対して、関係を一歩踏み込みたいという気持ちを抱えながらも、内に秘めたまま通り過ぎてゆく女性が描かれています。中年以降の恋愛の仕方は、若い頃とは変わってくると思いますか? 末永 関係性にあまり結果を求めなくなりますね。白黒つけないままで、それでいいんだという。若いときは答えが欲しいし、結果が欲しいですけど。若い時は、ちゃんと男性もこちらの感情の相手をしてくれるし、取っ組み合いになって恋愛ができるけど、歳を取ると「相手に無視されるかもしれない、相手にしてくれないかもしれない」という不安が先に立つんですよ。「気持ち悪いな、このオバサン」と思われたら怖いでしょ。臆病になってきますよね。だから結果はどうなんだ、と答えを求めずにウジウジしてしまうんだと思う。結果を求めないというのは、自信のなさの表れじゃないですかね。 ――『淋しい吊橋』という作品の中で「女の恋もスポーツ選手みたいなものよね ある時期からずーっと負け続け、そして引退」という台詞があります。最近は美魔女という引退を認めない女性もいますが、どう思われますか? 末永 あれも結局は悪あがきでしょ。美魔女と呼ばれる女性って、もともとキレイな人が多いけど、そういう人ほど若い時にいろいろな余得を得てきたはずで、歳を取ったからってそれを手放すのがイヤなんだと思いますね。 ――見た目の若さを保つことにも限界があるし「絶対的な年齢」も積み重なっていきますよね。そうした「女としての尊厳」を傷つけられるような状況で、女はどうプライドを保っていけば良いのでしょうか。 末永 恋愛とか「女であること」以外の部分をしっかりやることじゃないでしょうか。妻や母親として家庭のことをやっているとか、仕事をしているとか、自分が女であること以外に足場があれば、女として惨めな目に遭っても切り抜けられると思う。女の人にとって恋愛は大切な世界だから、いつでもしたいとは思うんだけど、トシを取っていくと恋愛一本じゃキツいですよ。だから、自分のプライドを維持できる何かを恋愛以外に持つことが大事なんじゃないでしょうか。 (取材・文/雨宮まみ) 『銀恋』 「おばあさん」になっても女を感じさせる人の胸の内には何があるのか? 中高年の色恋、男性との関係性を描いた9編の物語を収録。 【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます】 ・「小娘にはない”お母ちゃん感”で男を包む」、岩井志麻子が語る”中年の恋愛” ・ブスだって報われたい! 現代女子の道を照らす『源氏物語』二人の不美人 ・「夫にはセックスもさせません」、中年婚活の現実を「婦人公論」が特集 最終更新:2012/06/04 16:00 次の記事 ヒュー・ヘフナー復縁の陰にあの女帝? >