サイゾーウーマンカルチャーインタビュー結婚も出産もなく更年期を迎える……? 30代の女性監督が描く”女の選択” カルチャー 映画『不惑のアダージョ』監督インタビュー 結婚も出産もなく更年期を迎える……? 30代の女性監督が描く”女の選択” 2011/12/04 11:45 インタビュー 映画『不惑のアダージョ』 どんな努力をしてでも避けたい。でもいつか必ずやってくる、老い。特に私たち女性は、老いにあらがいたいというのが本心。心はまだ若いつもりなのに、体は正直に老いていく。そんな、体と心の変化になかなか向き合えない女性の様を映し出したのが、映画『不惑のアダージョ』。主人公は40歳を迎えた修道女。神に身を捧げて静かに生きてきたけれど、人よりも早くやってきた”更年期障害”に戸惑いを隠せない。 監督は、今作で長編映画デビューを果たした井上都紀。これまで短編作品で腕を磨き、『大地を叩く女』はゆうばり国際ファンタスティック映画祭、2008オフシアター賞でグランプリを獲得した。目をそむけたくなる問題をテーマにしながら、ファンタジックな雰囲気漂う演出も見事。現在37歳の井上監督が、なぜ女性の更年期を描こうと思ったのか。井上都紀監督に、たっぷりお話を聞いてきました。 ――まだ30代の井上監督が、女性の更年期をテーマにした映画を作ろうと思ったのはどうしてなんでしょう? 井上都紀(以下、井上) 映画を作る作業って、制作から公開までにかかる時間がものすごく長いんですね。私は普段、派遣社員の仕事もしているので、仕事と映画制作ばかりに時間を使って、自分のプライベートをどんどん置き去りにしてたんです。20代の後半から30代にかけては映画制作で本当に忙しくて、同時にプライベートなこともうまくいかなかったんです。『大地を叩く女』で賞をいただいたんですけど、それでやっと道が開けた。だけど同時に、このペースで仕事をしていたらあっという間に40歳になるなとも思った。もし結婚もできず子どもも産まなかったら、更年期を迎えた私はすごくショックを受けるだろうなと思ったんです。 ――先を見据えてるんですね。 井上 「まだ若いのにどうしてそんな先のことを不安に思うのか」と言われますけど、自分ではあまりそういう感覚はないんですよ。だって1年ってあまりに早いじゃないですか! 私だけじゃなく独身でバリバリ働いてる女性って、”母性”と向き合うことを後回しにして生きてるんじゃないかなって。”リミット”があることを、自分に言い聞かせるようにも作りたかったですし、実際に更年期を迎えたときに、もう少しポジティブに受け入れられるような提示をしたいと思うようになったんです。 ――井上監督自身の女性としての悶々とした思いを、映画にしてしまおうと? 井上 はい。ゆうばり国際映画祭で賞をいただいたことで、自分の好きな作品を撮っていいという、支援金をいただいたんです。それで、今までメジャー映画でも描かれていないことをやろうと思いました。修道女を主人公に、更年期をテーマに描く、2つのタブーにあえて挑戦しました。ただ……撮影をしていたときは私、34歳だったんです。正直まだリミットへは余裕をぶっこいてた時期だったんですが、公開されるまでに3 年たった今も、結局なんっにも変わってない(笑)。こういう映画を撮っても変われていない自分がすごく痛いと思ってますね……。 ――自分の作品を見て落ち込む映画監督を初めてみました(笑)。作品中のシスターは、若いときに自分の意思で洗礼を受けているはずですよね。でも、40歳になって結婚や子供のことなどの世俗的な話題が耳に入るようになってきた。「私の人生これでよかったんだろうか」と揺れてしまう。 井上 私たちは、自分自身で勝手に規律を作って、がんじがらめになって生きてる。彼女はその象徴なんです。彼女はシスターの格好だけど、自分で自分を規律にはめて生きている人というイメージ。本当のシスターは人生の選択に迷いや後悔はないと思いますけど。実際のシスターは修道院で集団で暮らしているので、今回描いている一人暮らしというのも架空の設定です。そうすることで、徐々にシスターから「ひとりの女性」として見えてくれたらいいなって。 ――女性同士でも、更年期や閉経という言葉はあまり口にできない気がします。 井上 そうなんです。みんな耳をふさぎたくなる。でも良い悪いではなく、単純に事実なんだけどなって思います。初潮を迎えるときは家族に祝われたり、囲まれているのに、閉経を迎えるときはひとりですよね。家族に囲まれてても、閉経を迎える心の痛みって分からないと思う。孤独なことなんだなってことに気が付いて、始まりだけでなく終わりもちゃんと日の目に出してあげたいと思ったんです。 ――更年期障害というと、イライラしたり、体調がすぐれなくなるイメージがありますが、実際に更年期について調べたりしたんですか? 井上 そうですね。母親に聞いたりもしましたけど、あまりにリアリティがありすぎると、つらく見えてしまうし、そんなの見たくないという人もいると思うので、少し距離を置いた描き方をしていますね。 ――この作品を見た男性は、どんな反応をしていますか? 井上 男性にとって女性って、身近なファンタジー。普段から横にいるけど、女性の体のことは永遠に分かり得ないじゃないですか。見終わった後に「なんか分かる気がする」って受け止めてくれる人は、普段から女性の気持ちを想像したり思いやっている人。それに対して「まったく理解ができない」と言うのは、今まで女性をきちんと愛したことがあるのかなって疑っちゃいます(笑)。リトマス試験紙みたいな作品だと思いますよ。 ――女性である私たちも、自分の体をコントロールできないですからね……。でもこれからも私たちは女として生きていかなきゃいけない。 井上 私がこの映画を作ったのは、やっぱりリミットがあるから、後悔しないように生きてほしいって言いたかったからです。女性には幸せになってほしいし、なにより私が幸せになりたいんですよ(笑)! (後編につづく) 『一生働く覚悟を決めた女性たちへ』 そこまでの覚悟はないんです 【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます】 ・「小娘にはない”お母ちゃん感”で男を包む」、岩井志麻子が語る”中年の恋愛” ・「環境が整ったなんて希望的観測」上野千鶴子が女性の社会進出の実態を暴く ・「子どもが出来ることを嫌悪する男はいない」人妻の性と恋を描いた内田春菊監督作 最終更新:2011/12/04 11:45 次の記事 鈴木京香さえただの飾り! 「家庭画報」は良家ソサエティーの教科書 >