[女性誌速攻レビュー]「家庭画報」1月号

鈴木京香さえただの飾り! 「家庭画報」は良家ソサエティーの教科書

2011/12/04 17:00
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「家庭画報」2012年1月号(世界文化
社)

 「LEE」12月号のレビューで、ファッションにおける季節感をそれほど大事にするなら二十四節気の日付に赤丸をつけよう、と提案した筆者ですが、まさか今月号の「家庭画報」に「二十四節気もわかる 旧暦・月歴カレンダー」が付いてくるとは思いませんでした。2012年で創刊55周年を迎え、さらには「新春特大号」と銘打つ今月号は、ほかにも「韓国・ソウル極上の旅ガイド」「ウィーン・フィルが奏でるモーツァルトCD」「ハリー・ウィンストンBOOK」「家庭画報通販 新年を彩る『名品セレクション』」と5大付録で、お値段1,370円!!

 付録の中には、「あれ? 広告なんじゃ?」と一瞬頭をかすめるものもありますが、「モーツァルトCD」の存在がすべてを流してくれます。それでも二つ目の疑問「あれ? デアゴスティーニの『週刊モーツァルト』じゃないよね?」というものが頭をよぎりますが、重すぎて本屋のビニール袋の持ち手がビローンと伸びたので、これは「家庭画報」で間違いなさそうです。表紙を見る限り、「吉永小百合」「坂本龍一」「中村勘三郎」「曽野綾子」「エリザベス・テイラー」など豪華過ぎて目まいがしそうな名前が並んでますが、内容はいかに?

<トピック>
◎美しき伝承 心新たに初春を祝う
◎伊勢の神宮 御装束神宝
◎バレエの貴公子が案内する パリ・オペラ座の魅力

■「本物」を見極める教養こそが武器

 まずは第一特集「美しき伝承 心新たに初春を祝う」を見て行きましょう。特集は「伊勢の神宮 御装束神宝」、「『花の家』の華正月」(池坊の次期家元特集)、「春を寿ぐ『花祭り』」(3つの県で行われる神楽を特集)という三部仕立てなんですが、タイトルの重厚感に「家庭画報」慣れしていないビギナーは門前払いを食らいそうな予感。

 20年に1度、建物から御装束神宝まですべてを新しくする、伊勢の神宮。「伊勢の神宮 御装束神宝」では、そこで納められる御太刀や御鏡をしつらえる名工たちをインタビューしています。煌びやかな装飾がほどこされた御太刀、細やかな文様が描かれた御鏡などの写真には圧倒されます。もう『情熱大陸』(TBS系)や『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)がオリラジ・藤森のようなチャラ男に見えてしまうような、骨太企画。「藤岡弘、」ぐらい愚直で、世間とかい離しています。


 「家庭画報」ビギナーは、「お伊勢さんの話をされても……」と困惑気味でしょう。しかし「良家ソサエティー」の仲間入りをしたければ、こういった「美」に関する骨太企画を読んで頭に叩き込まなければなりません。それは「美」に関する知識・教養こそが、「家庭画報」的世界観の基本的な共通事項だからです。

 例えば、「美しき伝承 心新たに初春を祝う」の第二部「『花の家』の華正月」は池坊次期家元の池坊由紀さんがいけた花の写真がふんだんに掲載されています。次期家元レベルの技とセンス、そして「美」に対するスタンスを踏まえておかなければ、「本物」を見極めることが難しいのです。

 今月号の後半にある「東大寺の美、天平の息吹」も然り。東大寺に題をとった着物や帯を、東大寺のさまざまな場所で撮った企画。すべての着物をオヤジ殺しの代名詞・鈴木京香が着こなしていますが、あくまで主役は着物。鈴木京香が発した言葉は、どこにも載っていません。中堅女優でさえ無視! すごい心意気です。でもそこまでしても見る価値があるんでしょう、なんていったって重要無形文化財保持者が手掛けた着物・帯なんですって。

 こうして「本物」を見ているから、「家庭画報」読者は歌舞伎座ですれ違いざまに相手の着物の値打ちを判断できるのです。刺繍・染色法・その他さまざまな技法を瞬時に見抜く力を鍛えるのは、まさに良家ソサエティーの教科書というべき「家庭画報」だからこそ。一見小金持ちに見える「VERY」(光文社)や「Precious」(小学館)だって、所詮掲載されているのは「●●のカシミアコート」や「●●がおいしい白金のレストラン」など、あくまで”情報”なんです。ネットや「東京カレンダー」などでどうとでもカバーできる。でも良家ソサエティーで求められるのは、長年読んで・触って・見てきたからこそ得られる”知識・教養”。伊勢の神宮の調度品なんて、きっと「家庭画報」読者でも会話には出てこないでしょう。でも調度品の価値、作り方、そしてそういった神事があるという知識が、さまざまな「美」に関する教養に派生していくのです。「美」に対する教養というのは、それを支える経済力の誇示にもなるのですから、「家庭画報」読者が手を抜けない分野。そして、それを教えるのは「家庭画報」。まさに寺子屋雑誌の理想形です。

■異性への眼差しを「芸術」として昇華


 中年女性誌に向けた企画として外せないのが、「ジャニーズ」「氷川きよし」「韓流アイドル」などの”イケメン”ものです。雑誌側としては一見平凡なインタビューに見せてますが、写真のセレクトが恣意的です。一まわりも二まわりも年下の男性がもつ美しさに身悶えしたり、妄想したり、自分自身をタイムスリップさせたり、と読者の愉しみ方は千差万別。しかし、「家庭画報」の品性はそれを許さないようです。

 先月号では篠山紀信にフィギュアスケーターを撮らせていましたが、今月号では20歳にしてパリ・オペラ座のエトワールに任命された、バレエ界の貴公子マチュー・ガニオを12ページに渡って紹介しています。オペラ座の絢爛豪華な正面入り口でポーズを撮った彼はもう聖人君主のようで、1ミリリットルのエロスを投げかけることさえ許されそうにありません。そう、「家庭画報」のイケメン枠は、すべて「芸術」に昇華されるんです。フィギュアスケーター企画も、あきらかに読者の高橋大輔に対するねっとりとした眼差しを感じているはずなのに、篠山紀信というふりかけで「表現者・高橋大輔」にしちゃっていたし。熟した女が若い男に性的な眼差しを向けることさえ禁じているようです。でもその方針を貫いているのは、編集部というより、読者自身だと感じるのは筆者だけでしょうか。中年女性のエロ市場が解禁されている今、逆にエロを拒否する姿勢は一種の個性に成りうるのか……この問題は今後も追っていきたいと思います。

 ちなみに、今月号では「家族で囲む お正月料理」として、おせちをはじめとする料理が紹介されています。突如「藤田家」「大原家」など、どのぐらいの名家かわかりませんが、素材や料理はもちろん、テーブルコーディネートや器・お皿のセンスに感嘆のため息を漏らしてしまいました。貧乏暇なしで働く筆者のような人へのフォローか、大根おろしを添えた「おろし餅」という料理が載っていたので、ありがたくマネさせて頂きます。
(小島かほり)

「家庭画報」

「セカンド・ヴァージン」に着物語られてもねぇ?

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最終更新:2011/12/04 18:08