大竹しのぶネエさんのおもしろさ&愛しさ全開! 『オカンの嫁入り』で素直になろっ
サイ女な皆さん、今日もゴシップガール気どってますか~。女装界の誰と誰の仲が悪いのか、相関図を書いてパワーバランスの確認に余念のない、ブルボンヌどえ~す。(うそよ、みーんな仲良しだお!←棒読み)
映画公開に合わせて大女優を次々に血祭りに、じゃなかった、女装目線で絶賛させていただくこの連載ですが、フツーならこのタイミングだと、先日来日されて大きくニュースにもなった世界のトップギャラ女優、ジュリア・ロバーツさんが来そうなものよね? そう、あの『食べて、呑んで、屁をこいて』とかいう映画。チガウヨッ! つか下品よ! でもアタシはあえて、あの映画は選びませんでした。だってなんか、ジュリロバさんって正直オネエ心をそそらないんだもーん。別に目とか口が大きすぎて怖いから言ってんじゃないの。
で、同時期に公開される、もっともっと好物な大女優さんの映画を見つけました。しかも邦画。連載7回目にして、いよいよ日本の大女優が登場!
記念すべき初登場の日本人女優は、ああ、この人で良かった! な、大竹しのぶさんです~! そう、話題の映画『オカンの嫁入り』でいかせてもらいました~。
割とオンナ全開な、どや顔のしのぶオカンと、
それを露骨に冷めた目で見てる風のあおいちゃん。
(C)2010『オカンの嫁入り』製作委員会まず今作の前に、大竹しのぶネエさんの偉業についてちょっとおさらい。もちろん、一番の偉業は可愛いIMALUちゃんをお産みになったこと! って、それはアタシ的には割とどうでもいいわ。
一般的には、『青春の門』(筑豊篇、1974年)や『あゝ野麦峠』(79年)で注目を浴びたしのぶさんですが、アタシは、まだ汚れてなかった学生の頃に見たトレンディードラマの草分け『男女7人夏/秋物語』(TBS系)で、「いわゆる美人顔じゃないのに、妙にフェロモンが出てる演技派女優」として、強烈に印象付けられました。
その後、清水ミチコ先生のモノマネというオシャレな後押しを受けながら、多重人格ドラマ『存在の深き眠り』(NHK)などで、しのぶさんの凄みをますます実感し、ついに極めつけのしのぶにたどり着いたのです。
それは99年公開の和製ホラー映画『黒い家』。恐怖の大王は、しのぶさんのことだったんじゃないか、と思うくらいコッワイコッワイ殺人鬼役でした。後半、まだ骨太キャラになる前の内野聖陽を追い詰めていく様は、『八つ墓村』の小川真由美先生に匹敵するレベル。
ボーリングの球をぶん投げて、もの凄い形相で近寄ってきたしのぶさんが内野くんにまたがり、勢いよくオッパイを出しちゃって、
「乳しゃ~ぶ~れ~!!」
と、ありえないリクエスト! 涙目で内野くんがしゃぶると、
「ヘタクソ~ッ!!!!」
と、突き飛ばすという衝撃シーン。てかそんな状況で、テクニシャンでいられる男がいるもんか。つまりアタシがやられたしのぶさんの素晴らしさってのは、そんな無茶な演技すらこなせる幅の部分。やっぱ、エグい演技もやってこそ女優よね。
ただし、今回の『オカンの嫁入り』は乳をしゃぶらせるようなシーンは全くない、まっすぐにハートウォーミングな人情ドラマです。
(注)姥捨てに向かうシーンではありません。
地味めな顔なのにカリスマたっぷり、という点でこの二人が親子という設定は
すごくハマってるわ。冒頭から、深夜3時に泥酔したしのぶオカンが帰宅し「おーみーやーげー!」と騒いで連れてきたのは、年の差何歳だよな若いリーゼント男、桐谷くん。のっけから笑わせてくれて、つかみはバッチリ。ただ、これだけだと、いつぞやの小柳ルミ子物語みたいになっちゃいそうなところを、お話が進むにつれ、その恋の背景がじわじわと見えてきて、母と娘、そして若い男の想いが、それぞれ心に染みていくのです。
真っ赤なジャケットに金髪リーゼントのイケてない桐谷くん。
でもその理由を聞くと、逆にこの姿が愛おしく見えてくるのよ!ところで余談ですけど、個人的にアガったのが、母が「陽子」、娘が「月子」という、名前の設定。内館牧子先生の名作ドラマ『週末婚』(TBS系)の姉妹と同じ名前じゃないのっ! やっぱり、したがり屋のずるい女・陽子が月子をいじめまくるのかしら……って思ったら、そんなひどい親子ではありませんでした。
母一人子一人で生きてきた、深い深い絆で結ばれた親子。奔放なように見えて、誰よりも娘を愛し行く末を心配するオカンの想いや、不幸な事件によるトラウマで心がこわばってしまった娘が必死にそれを乗り越える姿、そしてそんな二人をピュアな優しさで包み込もうとするオカンの彼氏。
もうね、みんな愛おしくなっちゃうのよー。気づいたら、ただオカンに寄り添う娘の姿を見るだけでも、涙がぽろぽろこぼれるくらい、すっかりヤツラに心を奪われてたんです。女装の目にも涙よ。
ザ・ホームドラマな、おこたシーン。左のババアは大家さん。
このババアがまたイイ味出してんの! ってババア連呼失礼しました。正直言うと、この映画ってお仕事じゃなければスルーしてたタイプなんだけど、見てホントに良かったわ。いつも強烈なお話やエグい演技ばかりを求めがちなアタシが恥ずかしい!(あ、でもそっちも絶対やめられないけど)
実はアタシも母一人、娘気どりのオッサン一人な親子なので、かけがえのない人には、意地を張らずに素直に愛情を伝えるのが一番ね、な~んてかわいいことも思っちゃったり。 まあ、母親を自分のイベントに招待して、エロネタの女装ショウを目の前で見せ付けてるくらいだから、十分素直に伝えてる関係だとは思うけど。ってそれが親孝行なのか親不孝なのかはおいといて……。
あ、ひたすらイイ映画風に書いちゃったけど、笑いどころもたっぷりあるわよ~。とくに「すごいことになっちゃった……(しのぶ口調)」って言って全身白無垢で登場したしのぶさんを見た時は、いいシーンなのにゲラゲラ笑ったわ。でも涙も同時に出てくんの。ホント、大竹しのぶという大女優の、おもしろさと愛らしさがたっぷり詰まった作品でした。
サイ女ってさ、斜め目線なおもしろさを分かってるぶん、強がっちゃったりして寂しさも人一倍感じてそうな気がするのよね。ぜひとも、かわいくて暖かい、ホクホクのたこ焼きみたいなこの映画を観て、自分の心を癒してあげて!
ブルボンヌ
女装パフォマー/ライター。『この映画がすごい!』(宝島社)『BUBKA』(コアマガジン)等に寄稿しつつ、フジテレビ『知りたがり!』コメンテーター出演や、新宿2丁目ゲイミックスバーのママ業もこなす。芸能通のゲイたちと一緒にオカマなブログ『Campy!』もプロデュース中。『オカンの嫁入り』
母ひとり、子ひとりで大阪の下町で暮らしていた陽子(大竹しのぶ)と月子(宮崎あおい)。ある日の深夜、母・陽子が酔っぱらって若い男・研二(桐谷健太)を連れて帰ってくる。「おかあさん、この人と結婚することにしたから」と突然言う母に戸惑い許せない月子は、家を飛び出してしまう。しかし、陽子には月子に打ち明けていない秘密があった。監督・脚本:呉美保
出演:宮崎あおい、大竹しのぶ、桐谷健太、絵沢萠子、國村隼
配給:角川映画
角川シネマ新宿他、全国ロードショーで公開中!
公式サイトそんな面白シーンがあったの!?
【バックナンバー】
・第一回 ブルース・ウィルス『サロゲート』
・第二回 メリル・ストリープ『恋するベーカリー』
・第三回 ペネロペ・クルス、ニコール・キッドマンなど『NINE』
・第四回 ガボレイ・シディベ『プレシャス』
・第五回 『セックス・アンド・ザ・シティ2 』
・第六回 アンジェリーナ・ジョリー『ソルト』 最終更新:2019/05/17 21:06 アクセスランキング今週のTLコミックベスト5
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