ブルボンヌの映画批評 「女優女優女優!」第三回

“女優だよ!全員集合”映画、『NINE』は女優のどや顔コレクション!  

2010/03/20 21:00
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 『サイゾーウーマン』読者の皆さん、今日も斜め目線で見てますか~? やりすぎて首、痛めないようにね。映画レビュー連載も無事に3回目を迎えた、新宿2丁目ママのブルボンヌよん!

 前回のメリル姐さんに続いて、今回も「女優女優女優!」というタイトルにふさわしい映画でイッちゃうわよ~。これでもかってくらい大女優が勢ぞろいしちゃったミュージカル映画、『NINE』です!

 エディット・ピアフ役でアカデミー主演女優賞をとったマリオン・コティヤールをはじめ、ペネロペ・クルス、ニコール・キッドマン、ファーギー、ケイト・ハドソンと、タイプ違いの美女がズラリ。さらに、ジュディ・デンチにソフィア・ローレンという貫禄ババアまで集まった、恐ろしいキャスト!

 なんでこんなに女優だらけなのかっていうと、この映画、女たらしなオッサンが主人公だからなのね。イタリアの伊達オッサンと、それを取りまく女たち、ってお話。女たちはオッサンにとっての、妻、愛人、ミューズ、娼婦、仕事仲間、母、として色とりどりに描かれるんだけど、この配役が本当にお見事なの。貞淑さと激しさを併せ持つ妻マリオンに、愛人のエロさとめんどくささ全開のペネロペ、あいかわらず体温低そうな無表情のニコマン、子供相手にチャリ銭で筆下ろしさせちゃうファーギー、とみんなイメージ通りでハマりすぎ。このキャスティングは本当に奇跡の技だわ!

スランプに陥った天才映画監督が、自分をとりまく女たちにすがり、翻弄されるお話。
この、えらそーなオッサンが主役よ!


 で、でも……ソフィア・ローレン大姐様が「母」ってのは、どうなの。凄みありすぎなんですけど。どう考えてもあんなお母さんじゃ安らげないわよ。主人公がことあるごとに母を思い出すのも、もはやトラウマの域なんじゃないかと。あーん、ママがこわい!

 ちなみにこの映画、大ヒットしたビッチ女たちのミュージカル『シカゴ』の監督&スタッフなんだけど、正直、あの感覚を期待しちゃうとずいぶん違うのよね。なんたって原点はフェリーニ映画、あくまで女たらしなオッサン視点の物語ですから。

 そのせいで、大量に女が出てくる割には、女が感情移入させてもらえる描写は少なめ。まあ、マリオンが演じた、浮気な亭主に苦しめられる妻って立場が、一般的な日本の女子なら一番シンクロできる余地アリかしら。

 1人の男が女全員を束ねてる分、「女」視点から見ようとすると、細切れすぎで戸惑っちゃうかも。それはミュージカルシーンにも顕著で、割と統一感のあった『シカゴ』に比べると、『NINE』のナンバーは、女のキャラに合わせてカラーも全然違うの。アタシも含めて、オネエさん系が一番アガりそうなのは、ケイト・ハドソンが歌って踊る『シネマ・イタリアーノ』(CMでもばんばん使われてるやつ)だと思うんだけど、ああいうゴージャスでアップテンポな曲は実はそんなにないのね。まあ、ファーギー姐さんの砂かけババアダンスが次に派手なくらいかしら。

 『シカゴ』以降、『ドリームガールズ』に『ヘアスプレー』と、オネエさん狂喜なイケイケ系ミュージカル映画が連発だったから、そのへんに比べちゃうと『NINE』はずいぶん渋めのナンバーが多いのよねぇ。


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アタシがダントツでイチ押しな『シネマ・イタリアーノ』のシーン。
これだけのために観てもイイ華やかさ!


 って、このままじゃあんまり興奮できないって言ってるみたいね。そんなことないのよー。この映画を楽しむなら、とことん上っ面を見るか、とことん掘り下げて深く味わうか、どっちかに徹すればいいんだと思うの。

 ただ掘り下げるほうは、少なからず男視点が必要かも。アタシは、こんななりして実際はオッサンじゃなーい。気抜くとすぐヒゲ生えてきちゃうし。だから、申し訳程度とは言え主人公の気持ちも分かるっちゃあ分かる。用途に合わせて身勝手に女を求める、ハーレム幻想ってまさしく男の世界観よ。ま、アタシの希望は、一般的には理解しがたい、むさ苦しい男だらけのハーレムなんですけどね。そんな願望を持つ目線からすると、身につまされる面も含めて、男ストーリーも味わい深いわ。

 でもとりあえずは、ストーリーなんか置いといて、ハマり役の女優たちの、どや顔コレクションをなぞるだけでも十分なのよ! ファッションも含めて、「女優カタログ」としては、これ以上豪華なものはそうそうないもんね~。それぞれの色むき出しで勝負してるソロパートももちろんだけど、圧巻は「女優だよ!全員集合」なオープニングとエンディング。こんな怖そうな女優たちが一ヶ所に揃ってるってだけで、もう観てるこっちが緊張しちゃう。演出とか登場順とか、現場の気の遣いようを考えると、もはやホラー映画の域だわね。

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ちょっと分かりにくいけど、女優たちが全員集合するオープニングシーン。
撮影現場を想像しただけで背筋が凍るわ!


 とまあ、女だらけの割には、男の願望が強すぎるストーリーの映画、だったんだけど、よくよく考えてみれば、今の日本にこんな気概をもった男も、あんまりいないわよね? まあ、昔のイタリアの大監督って設定と、不況の現代日本のリアルな男を比べるのもかわいそうだけど、皆さんの周りを見渡しても、女たちをはべらす甲斐性がある男なんてもはや絶滅危惧種でしょ?

 女を食う牙を抜かれた草食男たちが大量発生するこんな時代。強くなりすぎた女の側から、「男って全くおバカでかわいい生き物だわね~」なんて、強気に観てあげればいいのかもしんない。で、最高級の女カタログの中から、「アタシだったらこのタイプだわ!」なんて身の程知らずに選んで、オシャレなビジュアルと共に楽しむってのが、金のかかったこの豪華なミュージカル映画の、サイゾーウーマン流観賞法なんじゃないかしら?

 ってアタシ、こんな上から目線だから、さっぱりオトコができない気もしてきたわ……。ハーレムに入れてももらえず、ハーレムを作れるほどでもない、八方塞がりのオッサン女装ってどうなの~。

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ブルボンヌ
全国クラブのお笑いショウや試写会テキトーMCで活躍中の女装パフォマー/ライター。『この映画がすごい!』(宝島社)『BUBKA』(コアマガジン)等に寄稿しつつ、新宿2丁目ゲイミックスバーのママ業もこなす。芸能通のゲイたちと一緒にオカマなブログ『Campy!』もプロデュース中。

『NINE』
世界的に有名な映画監督、グイド・コンティーニは新作映画の撮影に取り掛かろうとしていた。しかし、10日後に撮影を控えてもスタッフはおろかプロデューサーすらタイトル以外は知らされていない。天才の前に立ちはだかる「アイデアが思いつかない」という大きな壁。もがき苦しみながら彼が選んだ道は、自分の弱さを包みこんでくれる愛する女たちのもとに逃げ込むことだった。
監督・製作・振付/ロブ・マーシャル
出演/ダニエル・デイ=ルイス、マリオン・コティヤール、ペネロペ・クルス、ジュディ・デンチ、ファーギー、ケイト・ハドソン、ニコール・キッドマン、ソフィア・ローレン
3月19日(金)より丸の内ピカデリー1他、全国ロードショー
公式サイト

『病気だョ!全員集合 (単行本)』

こっちも怖い!

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