[女性誌速攻レビュー]「STORY」7月号

林真理子の”悪女推奨論”がさく裂! ”したがる女”満載の「STORY」7月号

2010/06/02 16:00
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「STORY」7月号/光文社

 今月号の「STORY」、大特集は「富岡佳子さんの『大人ガーリー化計画』」です。若づくりという言葉を「大人カワイイ」など、いろんな形で置き換えてきた女性誌カルチャーですが、「大人ガーリー」まできてしまいました。ちなみに、「STORY」のお姉さん雑誌「HERS」6月号に踊る文字は、「年齢不詳美人」。いつまで女性は年齢に縛れるのか、とドンヨリした気持ちになってしまいますが、「STORY」は今月もアゲアゲ。その上昇気流にのっかて、読み進めて行きたいと思います。ではトピックから。

<トピックス>
◎大特集 年齢不詳は、もはや40代の常識です 富岡佳子さんの「大人ガーリー化計画」
◎「主婦、ときどき悪女」が幸せの秘密
◎バリキャリたちの「明るい高齢出産」

■2010年版なのかバブル回帰なのか……「STORY」の悪女論

 中島みゆきの名曲『悪女』は、素直になれない女性が幸せという小芝居をうって自爆するお話ですが、今月の「STORY」のトップを飾るのは、「『主婦、ときどき悪女』が幸せの秘密」という企画。なんでも”悪女なあたし”こそ、幸せという精魂たくましい女性たちのお話です。貞淑な昼の顔、そしてちょっと怪しい夜の顔。そんな意外性があってこそ、大人の日常は輝くのだと。マジすか?

 洗濯ものを干したり、八百屋でおばちゃんと談笑したりするする”平凡な主婦”カットと、写真週刊誌に盗撮されているような(本当にそんな感じで撮ってるのがすごい)”ときどき悪女”カットを並べて、悪女っぷりがいかに人生に必要かを切々と説いています。そして登場するのが「STORY」世代のカリスマ、林真理子先生。また無理なことを言っています。

 「やっぱり男性が絡まないと生ぬるいじゃない?」だけど「本格的に男女の関係になるのは賢くない」なぜなら「何も失いたくはないけど冒険はしたい。(中略)悪女は強気な姿勢であることが重要。美しくNOを言う姿勢が悪女を作るのです」と、”ヤらずぼったくり”を誌面にて堂々と推奨しているではありませんか。ここから先生の妄想が火を噴き始めます。


 「昔、自分に気があったけど相手にしなかった男友達、つまり崇拝者を呼び出して、うんといい店に連れていってもらうとか」、もしくは完全に虚構の世界を演出すべきで「少しくらい嘘をついてもかまわないと思うんです。『元CAで、41歳のバツイチ。別れた実業家の夫からの慰謝料で生活しているけど、退屈で仕事を探している』とか」ですってよ。

 そのパーフェクトなキャラ設定には頭が下がります。ホテルのラウンジでオシャレにカクテルを飲んでいて、年下男に声をかけられるも軽くいなす。それから部屋に戻って昔の彼に電話。ホテルからだといつもより心なしか声も甘く「今からそっちに行くよ」と言われても、「だめよ、ここにいることは夫も知ってるわ」って……。最終的には”それもこれも家庭でいい妻を演じるために必要なこと”という暴論で帰結するのです。「CA」「ホテルのラウンジ」「昔の彼」出てくる単語全てにバブルの匂いを漂わせる先生の妄想。この世代を上得意として抱えているからこそできる伝統芸みたいなもんでしょう。

■この世代特有のパワー

 林真理子先生の妄想に引っ張られ過ぎて、ファッションページがほとんど頭に入らぬまま読み進めていたら、先生の上を行くようなすごい女性が登場していました。連載「私の服にはSTORYがある」の今回の主役、長谷川暁子さんです。「STORY」が好きそうなモテぷよな二の腕と豊かなバスト。幼稚園から聖心女学院に通い、実家は日本屈指の画廊、日動画廊というお嬢様です。

 あらあら有閑マダムですこと……と軽く読み飛ばそうとしたら火傷しますよ。この人の日常がとにかくすごい。朝6時からジェルネイル、午前中に画廊の仕事をこなし、お昼は銀座「しゃぶせん」でしゃぶしゃぶランチを30分でたいらげ、残りの30分でゴルフレッスン、午後の仕事を済ませたら、子どもと一緒に海外出張……その合間に中央区の保育施設運営委員会にも参画したり、現在は経済同友会の少子化対策検討委員会の副委員長も兼任って。


 こんな嫁を持つ旦那は大変だろうなぁと思っていたら、このお方、「4年前、”子どもを産む”という目標を立て、知人の医師に相談して排卵日を確実に割り出してもらおうと、人工授精でも定評のある銀座のクリニックを紹介していただきました」と、妊娠までアグレッシブ。そんなにガツガツこられて、旦那さんの下半身が心配です。しかも旦那様はイタリアのベニス在住だから当初から別居婚前提。それを”私にはファミリーの愛と誇りがあるから”と。

 完敗です。お金はないけど、体力と気力はあると思っている庶民たちを完膚なきまでに叩きのめすこの力強さ。この人が語る子育て(あとファッションも)って、はっきり言って一般人には一分のアドバイスにはなりません。だって子どもの食べこぼしをふくウェットティッシュはハワイモノだし、鼻水吸い取り器がフランス製だし。ただ真理子先生しかり長谷川さんしかり、この恐ろしいまでの”幸せ思い込みパワー”というのは、もしかしたら見習った方が人生楽しいかもしれません。私が主役、その他はみーんな脇役だという「STORY」特有の思考こそ、限られた余生を楽しく過ごすためのヒントなのかもね。でも私はたまに台詞がある脇役ぐらいが調度いいです、はい。

 確信犯的な巻頭の林真理子”悪女論”のせいで、大特集の「富岡佳子の大人ガーリー計画」が小娘のたわごとみたいにしか見えなくなってしまいました。なんでもこれからは”大人カワイイ”ではなく”大人ガーリー”なんですって。言われてみればこの世代、何でもガーリーガーリーしたがーりさんなんですよね。遊びたがーりーで、買いたがーりーで、幸せになりたがーりーな彼女たちに、ロスジェネ世代ど真ん中の私は、ただただため息をつくばかりの7月号でした。
(西澤千央)

「STORY」

表紙も攻めてます

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最終更新:2010/06/02 16:00