サイゾーウーマンカルチャー高齢女性たちのリアルな「冗談じゃない」 カルチャー 『終活シェアハウス』著者・御木本あかりインタビュー 年金に再雇用、立ち退き問題……高齢女性たちのリアルな「冗談じゃない」 2024/06/09 10:00 新城優征(ライター) 『終活シェアハウス』(小学館) 2022年、『やっかいな食卓』(小学館)で小説家デビューを果たした御木本あかり氏の2作目となる『終活シェアハウス』(同)。著者本人に思いを聞いた。 目次 ・タイトルは「終活」だが、“終活なんて冗談じゃない” ・友達と暮らす生活は、特別な話では全然ない ・年をとって、先行きが見えてきても…… タイトルは「終活」だが、“終活なんて冗談じゃない” 2022年、『やっかいな食卓』(小学館)で小説家デビューを果たした御木本あかり氏。元外交官夫人と次男一家の同居話を軸に、家族のありようを描いた同作に続いて発表されたのが、2作目となる『終活シェアハウス』(同)だ。 物語の舞台となるのは、とあるマンションの6階。そこでは68歳の女性4人が一緒に暮らしている。小学校からの60年来の仲である彼女たちは、再就職や認知症、詐欺、親子関係などさまざまな問題とぶつかっていくが、その波乱含みのシェアハウス生活を、「秘書」という名目の雑用係のバイトとして彼女たちと関わっていく大学生・翔太の目線を通し、軽やかに見せていく。 タイトルに「終活」とあるが、1953年生まれの御木本氏は、いわゆる“人生の終わりのための活動”をテーマにしているわけではないと話す。 「“終活なんて冗談じゃない”というのがテーマなんです。私もそうなんですが、高齢になると、社会から疎外されつつあるなと感じて、そのことに対する悔しい思いがすごくあるんですね。私の周辺でも不満はゴロゴロあって、そういう思いを書きたいと思いました」 御木本あかり氏/撮影=石田 寛 4人の女性のうち、元教師の厚子は、私はまだまだ現役とばかりに再就職先を探すも、年齢がネックとなって仕事が決まらず、鬱々とした思いを抱える。 「60から70になる間って、運のいい人や実力のある人は再就職できるけど、再雇用先も見つからず年金でカツカツの生活の人もいたり、再雇用されたけどお給料が下がった人もいたりして、大変な時期なんですよ」 そうした60代、70代のリアルも本作では描かれる。 「厚子はある出会いをきっかけに登山という趣味を見つけますが、そんな何かを見つけないとやっていけないんですよね。『あいつは就職できたのに自分はできなかった』とか、モヤモヤしていると、人生つらくなる。切り替えをどうやってうまくやっていくかが多分、私たち世代の課題だと思います」 友達と暮らす生活は、特別な話では全然ない 自称料理研究家の歌子が所有する部屋での女性4人のシェアハウス生活は理想的に映るが、外交官の妻として、欧州や南米などで20年以上の海外生活を送った著者にとって、「実際にありうるもの」だという。 「日本と住宅事情はだいぶ違いますから、ゆったりした部屋で、友達同士のおばあさん2人が仲良く暮らしている生活なんかも見てきたんですよね。そんな特別な話では全然ないです。もちろん、みんなで一緒に暮らそうね、なんて言ってても、今の日本ではなかなか実現は難しいとは思いますけど、小説ならそういう世界があってもいいかなと」 作中には同性婚をしたカップルも登場するが、それも著者が実際に出会ってきた人たちに影響されたものだ。 「いろんな国で生きてきた中で、同性カップルもいっぱい見てきて、すごくいいカップルばかりなんですよね。“はやり”だから登場させたというわけではなく、こんなカップルがいるんだよと紹介したいという思いがあったんです」 4人の女性たちと、その孫世代にあたる翔太らの関わりは、どこか疑似家族的なものへと変化していく。 そんな本作において、それぞれの関係をつなぐ象徴となるのが、歌子が振る舞う手料理。著者にとって、「食」はなにより重要な要素だ。本作でも、思わずよだれが垂れそうな、魅力的な食事のシーンが次々と登場する。 「子どもの頃は料理の先生になろうかと思うぐらい、わりと小さい頃から1人でよく作ってました。海外ではみんなで集まって食事をする機会が多いんですが、若い頃は私が3日間かけて15人分全部用意したこともありましたね。とにかく、食事をしながらしゃべって付き合いを深めていくということを何十年とやってきたので、そういう体験が私の一番の人生の糧となっていて、それがお話にも反映されるんでしょう。人間が一番ほっと和めるのは食事のときだし、“みんなでワイワイ食事をするのは楽しいよ”と伝えたいのもあります」 年をとって、先行きが見えてきても…… キャラクターのセリフを通しても、さまざまなメッセージを伝えている著者だが、特に伝えたかったことは? と訊ねると、悩みながらこう答えてくれた。 「人生ってのはまだまだ面白いよ、ってことでしょうか。みんな確実に年をとって、先行きが見えてくるわけです。でも、まだまだ面白いことは世の中にあるよね、それを見つけていこう、みたいな思いが私の周辺でも共通してあって。だから同じ年代の人たちに、よし、もうちょっと頑張ってみるかって思ってもらえるといいですね」 御木本あかり氏/撮影=石田 寛 御木本あかり(みきもと・あかり) 1953年千葉県生まれ。お茶の水女子大学理学部卒業後、NHK入局。退職後は外交官の妻とし て在外生活は通算23年。その間、ローマに単身残り、大学に編入した経験を本名名義でエッセイとして発表。2022年、御木本あかり名義で初の小説『やっかいな食卓』を上梓。『終活シェアハウス』が2作目となる。 新城優征(ライター) 最終更新:2024/06/09 10:00 関連記事 『ザ・ノンフィクション』44歳で始まった終活「人生の終わりの過ごし方 ~『ダメ人間マエダ』の終活~ 前編」「婦人公論」に黒柳徹子が登場、終活・断捨離を軽やかに飛び越える死生観『ザ・ノンフィクション』貫禄と純粋が同居する大人の魅力『一人で生きていても… ~女60代 シェアハウス始めました~』60歳で会社を退職後、ボランティアで喜びを感じる――依頼する高齢者が「母の姿とも重なる」高齢者の友情が途切れる時とは!? 「婦人公論」の友だち特集に見るツライ現実 次の記事 アラフォー婚活、GUでお見合いはアリ? >