不動産転売のホスト風青年に踊らされた女――闇金社員が見た、その悲劇的末路
担当の大橋さんは伊東部長と会社、強面の藤原さんと空手有段者の小田さんは社長の自宅、イケメン営業マンの佐藤さんと私で連帯保証人である後藤さんの自宅兼薬局に向かうことになりました。
保険屋の祥子さんの1件以降、女性相手の回収には女性が必要という原則が生まれたようで、至極当然といった流れで出動を命じられたのです。女性客相手にはイケメンが一番だと、佐藤さんも同じような理論で女性担当にされていました。
保証人である後藤さんの自宅兼薬局までは、車で1時間半ほど。会社の下にあるコンビニで2人分のお茶とチョコレートを買い、デート気分で助手席に座って修羅場への道中を満喫します。
「ねえ、るり子さん。この2人、やっぱり男女の関係なんですかね?」
「さあ、どうでしょう? 雰囲気は満点でしたけどね。保証人さん、メロメロに見えましたよ」
「やっぱり? 保証人の旦那さんが出てきたら、なんて言おうかと悩んでいるんですよ」
「そんな修羅場は嫌ですけど、いずれバレることだし、はっきり言うほかないんじゃないですか?」
午後6時前。現場に到着すると、まだ営業中らしく駐車場は一杯で、店内に数人のお客さんが見えました。少し離れたところに車を停めて、本人の所在を確認するべく2人連なって店に入った瞬間、ドスの利いた低い声で制されます。
「すんません、もう今日はおしまいなんですわ。申し訳ないですね」
「え? お店の方ですか?」
「関係者ですわ。今日は終わったんで、明日にしてもらえますか?」
「薬を取りに来たわけじゃないから大丈夫です。店主の後藤さんは、おられます?」
すると、周囲にいた男性たちが一斉に立ち上がり、私たちを取り囲むと威圧するように間合いを詰めてきました。あまりに恐くて、自然と佐藤さんの腕にしがみついた私は、誰とも目を合わせないように下を向きます。
「あんたら、金貸しか?」
「だったら、なんです?」
「一歩遅かったな。ウチは、〇×総業や。ここはもう、ウチが入ったから、すぐに出て行ってくれるか」
「…………」
顔を真っ赤にして、しばし相手方とにらみ合った佐藤さんでしたが、多勢に無勢でどうすることもできません。店を後にして、裏手にある自宅の方に回ってみると、すでに〇×総業と書かれた貼り紙が玄関扉に貼られていました。
「客は担当に似るというが、見事にやられたな」
その後も結局、社長はもちろん、後藤さんと面会することはかなわず、とりあえずは担保物件の処分を済ませます。タイミング悪く値崩れしてしまい、担保物件売却後の残債務は600万円ほどになりました。
「客は担当に似るというが、見事にやられたな」
「申し訳ございません」
その後の成績も芳しくなく、すっかり会社のお荷物社員になっていた大橋さんは、金田社長に嫌味を言われながらも出勤を続けています。
数カ月後。開業医だという後藤さんの両親が弁護士と債務整理にあたられ、遅延利息も含めて全額決済してくれました。娘さんの消息を聞けば、サラ金で資金を作ってまでして大橋社長と駆け落ちしたものの、お金だけ取られて姿をくらまされたそうで、いまは実家に戻って療養中とのことでした。
「ひとり娘なのに離婚までさせられて、まったくとんでもない男に引っかかったものですよ。子どもがいなかったことだけが唯一の救いです」
どこかうれしそうに語る老父を見て、いくつになっても娘は可愛いのだなと、大いに感心したことを覚えています。
それからまもなく、蓄膿症の手術をするからと休みを取った大橋さんでしたが、復帰することなく退職されました。なんでもお父さんのところで仕事をすることにしたそうで、客は担当に似るという金田社長の嫌味を思い出した次第です。
※本記事は事実をもとに再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)