サイゾーウーマンコラム保育園とデイサービスでイーブン コラム 老いゆく親と、どう向き合う? 母を介護する娘の戸惑いとは? 「保育園とデイサービスでイーブン」の意味 2023/12/03 18:00 坂口鈴香(ライター) 老いゆく親と、どう向き合う? 写真ACより “「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける” ――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社) そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。 春木美弥子さん(仮名・62)の母、那賀子さん(仮名・88)は何度目かの骨折で入院したあと、急激に弱ってしまい、ほとんどコミュニケーションも取れなくなってしまった。自宅に連れて帰った判断が甘かったと後悔していた矢先、那賀子さんはショートステイ前の意向確認の際、「延命治療は全部してください」と明確に意思を表示した。春木さんは思いがけず那賀子さんが見せた“生への執着”に戸惑っている。 ▽前編はこちら 車いす生活になった母が、これほど弱ってしまうとは……「私の見通しが甘かった」娘のため息 “「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける” ――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社) そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と...サイゾーウーマン2023.11.19 母はデイサービスの日になると体調を壊す 日に日に那賀子さんへの介護負担が重くなっていくなか、春木さんが唯一息抜きできるのが、那賀子さんがデイサービスに行っている時間だ。週に3日、パートに行く日にデイサービスを入れているが、時には仕事を休んで友人とランチに行くこともある。 「明日は母をデイサービスに預けてランチだ、とウキウキしていたら、私の弾んだ気持ちが伝わるのか、当日になると体調を壊すんです。そのたびに、友人にキャンセルの連絡を入れて……そんなことをもう何度も繰り返しています。そういえば、転倒して骨折したのもデイサービスに行く日でした。私が母を置いて羽を伸ばすのが許せなくて、わざと体調を崩しているんじゃないかとさえ思えて、母が憎くなることもあります」 それだけではない。デイサービスに行く時間と戻る時間は、春木さんに家にいてほしいと言う。春木さんはパートの時間をやりくりして、那賀子さんの要求にこたえているのだ。 それだけやっても、那賀子さんはデイサービスに行くことを嫌がっているという。なだめたり、励ましたり、ときには泣き落とししながら、何とかデイサービスに送り出すのも一苦労だ。 「デイサービスと、2カ月に1回くらいのショートステイだけが私の休息日なんです。それなのに、デイサービスに行くのを渋られると、無理に行かせている私が悪いように思えてきて、罪悪感にさいなまれる……。なかなか割り切れませんね」 保育園とデイサービス。これでチャラ? そんな春木さんだが、ふと幼いころのことを思い出したのだという。 「そういえば、私も昔保育園に行きたくなかった。毎日のように、『行きたくない』と駄々をこねては母を困らせていました」 そんなとき、那賀子さんは春木さんをなだめたり、時には怒ったりして、無理にでも登園させていたというのだ。 「どんなに私が泣いて抵抗しても、休むのは許してくれなかったよね、と。だったら、どんなに母がデイサービスを嫌がっても、無理にでも行かせたっていいんじゃないの? そう思うと、ちょっと吹っ切れたんです」 確かに。保育園とデイサービスでイーブン。これでチャラにすることで春木さんの罪悪感がなくなるのなら、それでいい。 しかし――。ようやく吹っ切れそうだったところに、春木さんをさらに困惑させるできごとが追い打ちをかけた。あまりに那賀子さんのドタキャンが多いので、デイサービスから「クビ」を言い渡されたのだ。 母は何のために生きてるのか? 「待っている人が多いので、ということでした。何より休みが多いと、デイサービスの収入が減るというのが本音のようです。デイサービス側の事情もよくわかりますが、私だってどうすればいいのか。また新しいデイサービスを探すのは大変だし、もし見つかっても母は新しいデイサービスにはなかなか慣れないでしょう。今よりももっとデイサービスを嫌がることになるだろうなと思うと憂鬱です。八方ふさがり、ってこういうことを言うんでしょうね もはや那賀子さんには、デイサービスに行って楽しもうとか、リハビリをして元気になろうとかという意欲はまったくない。母が何を考えて毎日を過ごしているのか、何のために生きているのかわからなくなっていると春木さんは視線を落とす。 それなのに、「すべての延命治療を希望します」という母――。 自分だってそのときになってみないと、わからない。延命治療はしたくない、というのは、元気な人間の理想論。生きるか死ぬかという局面に直面すると、延命治療をしてでも生きたいと思うのかもしれない。そう思ってはみるものの、そのときに母の希望に沿うことが果たして正解なのか? 母の言葉を聞かなければよかった……またひとつ春木さんの後悔が増えた。 「お前が楽をしたいだけちゃうか!」老いた父の言葉が、今も忘れられない娘Photo by gavin^_^ from Flickr 東京オリンピック開催が決まり、浮かれモードの世間だが、同時に「7年後の自分」に思いを馳せる人が多いようだ。7...サイゾーウーマン2013.09.22母のおもらしが増え、家中が臭くなり、怒鳴る父……変わってしまった実家に娘の複雑な思い “「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける” ――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社) そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老...サイゾーウーマン2021.08.29 坂口鈴香(ライター) 終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。 記事一覧 最終更新:2023/12/03 18:00 関連記事 老いてなお「姫」の母、振り回される娘2人は「金輪際、電話もかけてこないで」! 普通の母親なら子どもを心配するが……老いた母親と息子の屈折した愛情ーー「孝行息子」と評判だった男たちの暴走「義母はかわいそうだった」夫と義母のダブル介護を背負った嫁の決断【老いてゆく親と向き合う】「元気で若かった頃の自分にサヨーナラ」45歳の誕生日、老いより“死”が近づいてきた「お前が楽をしたいだけちゃうか!」老いた父の言葉が、今も忘れられない娘 次の記事 3万円超えのメイクブラシの使い心地とは? >