闇金おばさんは見た! 急死した社長の葬儀で取り立てた「香典」を盗んだ犯人は?
昼休みを終えた社員が全員そろったところで、香典袋の束を抱えた伊東部長が、みんなに告げます。
「香典袋の数が合わないのだが、誰も触ってないよな?」
当然に、営業社員の皆さんはきょとんと聞いておられますが、前口さんの目は泳ぎ、動揺を隠しきれていません。おそらくは証拠を隠滅したいのでしょう。その場に耐えられない様子でトイレに行こうとした前口さんでしたが、伊東部長が言葉を続け、それを制します。
「誰にも心当たりがないなら、警察を呼ぶほかないんだけども。その前に、みんなの所持品を確認させてもらおうか」
すると、ガタガタと激しく震え出した前口さんが、内ポケットから複数の香典袋を取り出して言いました。
「申し訳ございません。魔が差してしまいました……」
執行猶予中の前口さんにとって、警察を呼ばれることが一番の恐怖だったのでしょう。社員全員の冷たい視線を浴びながら、伊東部長に導かれて社長室に入った前口さんは、その数分後、顔を大きく腫らせて出てきました。
金田社長は、大学時代に空手をやっていた猛者。かなりやられた様子で、鼻と口から多量に出血していますが、みんなに無視されて誰にも介抱してもらえません。自分のハンカチで顔を覆って、私物を素早くまとめた前口さんは、逃げるように会社をあとにしました。
「るり子さん、つらい思いさせて悪かったね。今日はこれで、食事でもして帰って」
その後、社長室に呼ばれた私は、金田社長から3万円の現金を支給されました。すべての札がしわくちゃだったことから、取り立てた香典から出されたお金だと思われ、デリカシーのない人だなと思ったことを覚えています。その後の前口さんのことは、なにひとつわからず、生きているかどうかもわかりません。
※本記事は事実をもとに再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)