闇金おばさんは見た! 急死した社長の葬儀で取り立てた「香典」を盗んだ犯人は?
不渡事故が起きると、全額回収の目途がつくまで、帰りにくい雰囲気が充満します。経理部所属の私たちは、男性社員と違って縛りはないので、このタイミングで失礼させていただきました。
翌朝、いつも通り早めに出勤すると、社長室から人の気配を感じます。昨日、持病の検診に行くため、今日の出勤は午後になると社長から聞いていたので、愛子さんが掃除をしているのだと思い、驚かせるべく静かに扉を開けると、前口さんが社長室の机の上にある香典袋を開封していました。
どうやら昨夜の回収で取り立ててきたものらしく、その脇には債務者のものと思しき、見慣れぬ古びたオメガの腕時計も置かれています。なんとなく嫌な雰囲気を感じて、声をかけずに見守っていると、いくらかの香典袋を上着の内ポケットに入れるところを目撃することになりました。
「見てはいけないものを見てしまった」
途端にドキドキが止まらなくなった私は、そのまま静かに扉を閉めて、給湯室の掃除をしながら愛子さんの出勤を待ちました。
「るりちゃん、それは報告しないとダメよ。まずは、伊東部長に相談してみたら?」
出勤した愛子さんに、給湯室で一連のことを話すと、伊東部長に相談するよう進言されます。前口さんの状況を思えば、目をつむっておきたい気持ちにもなりますが、手癖の悪い人と一緒に働く気にはなれません。
「部長、今日、お昼一緒に食べませんか。私、ラーメンを食べに行きたいんですけど、一人では入りにくくて」
本当は、持参のお弁当を食べたかったのですが、みんなに聞かれることなく2人で話す機会は事務所にないので仕方ありません。結局、ラーメン屋では話もできないだろうということで、伊東部長行きつけの和食屋さんに連れて行っていただきました。おいしい刺身定食をいただきながら、今朝見たことを報告すると、途端に厳しい顔になった伊東部長が言いました。
「よく教えてくれたね。彼はお金に困っている人だから、ちょっと心配していたんだけど、こんなに早くやってしまうとは思わなかったな。きちんとしよう」
食事を終えて事務所に戻ると、社長も出勤しておられたので、部長と2人で朝の挨拶に伺います。すると、早速にすべてを報告した伊東部長に、顔色を変えた社長が言いました。
「香典袋の数が足りないからと、所持品検査をやれ」