“中学受験”に見る親と子の姿

インター校からの中学受験は簡単ではない――英語コンプレックスを息子で解消しようとした母の告白

2023/07/22 16:00
鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

英字新聞と学校の机といすの画像
写真ACより

 親は子どもの幸せを願い、そのためにあらゆる努力をするものだ。さまざまな進路を比較検討した結果、「この道をたどらせれば、きっと子どもの人生にプラスになるはず」と決断し、我が子を後押ししているという人は多いことだろう。

 これ自体は何の問題もない。強いて問題点を挙げるならば、子どもの特性を無視し、親が我が子に自らの“人生のリベンジ”を強要してしまうケース。その上に、“行き当たりバッタリ”感の強い教育が重なると、子への思いは届かなくなることが多い印象だ。

 現在大学2年生の息子を持つ渚さん(仮名)は、遠くを見てこうつぶやいた。

「何が悪かったんですかね。私はただ、息子の岳(仮名)の未来に良かれと思って選んだだけなのに……」


 岳君はプリスクール(未就学児を対象に、英語教育を行う施設)育ち。その流れでインターナショナルスクールに入学したそうだ。当時、「今後は世の中がますますグローバル社会になる」と言われており、それならば、息子には小さい頃から、英語力と国際感覚を身につけさせてあげたいという親心から、この進路を決めたそうだ。

「私は若い頃、海外に憧れてはいたんですが、金銭的に留学なんてできませんでした。じゃあ、独学で語学を学ぼうとなれば良かったものの、そういう覚悟もなく……一応、女子大の英文科を卒業しましたが、ほとんど英語は話せずじまいで、正直、コンプレックスがあります。夫も英語はからっきしなので、『岳だけは英語を!』って思ったんです」

 両親が日本人の場合、インターに通わせると、セミリンガル(ダブルリミテッド)になりやすいという話をよく聞く。これは、日本語と英語を使用する環境の中、どちらの言語ともに年相応のレベルに達していない状態ことを指す。将来的に論理的に物事を考えられなくなる可能性もあるだけに、重大な問題といえるだろう。

「もちろん、そのリスクは承知していたんですが、インターにいる日本人の先輩ママたちに聞くと『大丈夫』という答えばかりだったので、信用していました。でも、それが甘かったんです。やっぱり、家庭での支えが必要らしく、ふたを開けてみたら、家庭教師や塾を利用して、英語や日本語を含めた我が子の不得意分野を補習している人ばかりで……。思えば、ウチは何にもやっていなかったんですよね」

 プリスクールは、英語教育を行うと謳われていたものの、先生は日本人のほうが多い環境だったため、岳君は日本語を駆使。しかし、それなりに楽しく通っていたそうだ。岳君の学校生活に暗雲が垂れ込め始めたのはインター入学後、日本の一般的な小学校でいうところの4年生の頃だった。


「岳が『学校に行きたくない』って言い出したんです。それで原因を探ったら、帰国子女の子にずっといじめられていたことがわかりました。インターってやっぱり、自己主張が強い子の意見が通りやすい面があるんですが、岳はその子の言いなりになっていたらしく……。ほかの子や先生に助けを求めたくても、周りはほぼネイティブですから、岳の語学力ではうまく表現できなかったようで、黙ることでしか対応できなかったんだと思います」