老いゆく親と、どう向き合う?

病院に無理難題を突き付ける父――怒鳴り声で「虐待」がフラッシュバックした

2023/06/04 18:00
坂口鈴香(ライター)
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写真ACより

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

父と会うたびにフラッシュバックが

 この連載の「母から刃物で刺され、父からは性的虐待……“記憶にふた”をして生き延びた女性が『親の介護』に直面したら」に登場してくださった黒沢美紀さん(仮名・45)は、幼い頃から両親に壮絶な虐待を受けてきた。統合失調症だった母・良江さん(仮名・70)は、幸い体に合う薬が見つかり、おっとりとした優しい性格を取り戻した。幼女になったような母と、少しでも長く穏やかな日々を過ごしたいと願っている。

 その一方で、美紀さんが受けた傷はまだ癒えたわけではない。脳梗塞の後に自宅で転倒し骨折した父・昇二さん(仮名・75)とはどうしても会わざるを得ないこともある。会うと暴言を吐かれ、フラッシュバックを起こしそうになる。

 先日もこんなことがあったという。


「退院に向けてのカンファレンスがあったのですが、父がお医者さんやスタッフに怒鳴りながら、めちゃくちゃな要求をしたんです。スタッフが折衷案を出すと、さらに声を荒げて……」

 美紀さんはずっと我慢していたが、ついに涙が出てきた。

「やばい! フラッシュバックが起こりかけている」

 慌てて席を外し、ロビーで休んでいたが、フラッシュバックは激しくなり意識も朦朧としてきた。

「こんなに怖くて苦しい思いはもうしたくないと思いました。好き嫌いや、許す許さないの前に、父と接すること自体、私には無理なんだと思い知りました。これから私はどうすればいいのか……先が見えなくて不安でいっぱいです」


 昇二さんはこれまで外面はよかった。それが、病院で怒鳴り散らしたこともショックだったという。

「父は足の装具を付けなかったから、家で転んで骨折することになったのに、看護師さんがいくら説得しても『絶対に装具は付けない』と言い切っていたし、転んだ理由も『リハビリが週3回もあるからだ』と言いがかりのようなことをまくしたてて、とうとうリハビリの回数を減らさせました。どうやら、競馬や買い物に行くのに加え、リハビリにも行っていたら休みがなくなる――というのが、父の勝手な理論だったようです」

 昇二さんの無理難題は枚挙にいとまがない。

「介護保険で、実家の庭をアスファルトにすると言い張り、ケアマネさんから『それは市から許可が下りない』と言われると、『これやから役所仕事はかなんわ!』と怒鳴る……もうめちゃくちゃで、いたたまれませんでした」

 こんなことでは、また転んで骨折するだろう。不安は増すばかりだ。

コロナで苦しむ夫のため、母に運転を頼むことに

 先日は、美紀さんと夫がコロナに感染してしまった。美紀さんは回復したが、彼女からうつった夫はかなり重篤な状態になった。

「苦しそうでフラフラになっていました。病院に電話して診察をお願いしたのですが、看護師さんから『車がないんですか!? 車で待機してもらわないといけないので、車がなかったらどこも受け入れてくれないと思いますよ』と言われてしまったんです。私は免許を持っていなくて、途方に暮れました」

 背に腹は代えられないと、免許を持っている良江さんにお願いすることにした。美紀さんのマンションから実家までは遠い。良江さんに頼むと、昇二さんは間違いなくついてくるだろう。退院時のカンファレンスでフラッシュバックを起こしたことを思い出すと恐怖だったが、夫のためにほかに選択肢はない。意を決して、良江さんに連絡を取った。

続きは6月18日公開

坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2023/06/04 18:00
歳をとって頑固さが増した父親