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“ロックの女王”ティナ・ターナーが死去――享年83 、激動の人生を振り返る

2023/05/26 21:47
堀川樹里(ライター)
83歳でなくなったティナ・ターナーさん(Getty Imagesより)

 ロックの女王と呼ばれた音楽界のレジェンド、ティナ・ターナーが現地時間24日、スイス・チューリッヒ近郊の、美しい景色が見渡せる7,600万ドル(約106億円)の豪邸で死去した。享年83。闘病生活が長かった彼女だが、死因は老衰だったという。

 キャリア前半は仕事のパートナーで夫のアイク・ターナーから壮絶なDVやモラハラを受け不幸だったが、37歳で離婚に踏み切ってからは人生が好転。欧州で再ブレイクし、愛する男性にも巡り会えた。70代後半から病に苦しむようになり、息子たちに先立たれるという悲しみもあったが、最期は安らかに息を引き取ったと発表されている。

 8つのグラミー賞を獲得、半世紀にわたり数々のヒットを飛ばし世界中のファンを魅了してきたティナは、1939年にテネシー州の農場で誕生。両親に捨てられ、祖母に育てられるなど、複雑な環境で育った。高校卒業後、看護助手として病院で働いていたが、姉に連れられたナイトクラブでアイク・ターナーのバンド演奏を聴き感動。「自分も歌いたい!」とアプローチをかけ、アイクに歌声を認めてもらい、バンドメンバーに加わることに。

 アイクからティナという芸名を与えられ、アイク&ティナ・ターナーとして活動を開始すると、彼女のエネルギッシュなダンスと情熱的な歌声でたちまち人気者に。グラミー賞にノミネートされた翌62年、アイクと結婚し夫婦デュオとして音楽活動に没頭。歌って踊れるR&B歌手として人気を博し、72年に念願のグラミー賞を獲得。ティナは74年に初のソロアルバムをリリースし、単独でも活動するようになった。

 ステージでは常に笑顔だったティナだが、アイクからすさまじい家庭内暴力とモラハラを受けており、70年代半ばにアルコールとコカイン依存に陥った彼から逃げることを決意。76年、大げんかした勢いで何も持たずにアイクのもとを去り、離婚を申請。芸名だけを自分のものとし、あとは何もかも放棄してツアーをキャンセルしたことによる負債も引き受けて離婚を成立させた。


 長年、壮絶なモラハラやDVを受けてきたティナが離婚へと行動を移せたのは、創価学会インターナショナルを知り、題目を唱えることで心の平安を得られたからであり、また一人でも生きていけるのだという勇気を得ることができたからだったと明かしている。バプティスト派のキリスト教徒として育てられたティナは、70年代前半、創価学会に帰依。なお、97年にフランスの邸宅で受けたCBSドキュメンタリー『60 Minutes』のインタビューでは、大きな仏壇の前で題目を唱え、「長く唱えれば唱えるほどストレスが軽減されるの。魔法のようなものではないのよ、どちらかというと神秘的なものね。でも困っていて誰も助けてくれない時、これが私を救ってくれたの」と熱く語っている。

 離婚後の歌手活動は決してスムーズなものではなかったが、「黒人初のR&B歌手としてローリング・ストーンズのように会場を満員にさせる」ことを目標に、ライブを中心に必死で活動。45歳だった84年に発売したアルバム『プライヴェート・ダンサー』 がヨーロッパで大ヒットしたことで、自分のファンはアメリカよりもヨーロッパのほうが多いと確信。本拠地をヨーロッパに移し、その後もヒットを飛ばした。85年に10年ぶりに出演した映画『マッド・マックス/サンダードーム』も大好評で、かっこいい女性として世界中のファンを魅了した。