昭和天皇は大量の整髪料を消費していた? 知られざる天皇家の“みだしなみ事情”
――廃れる習慣というものも、伝統重視の皇族の生活にもやはりあるということでしょうね。皇后さまはどんな化粧品などをお使いだったのか、記録はありますか?
堀江 はい。しかし、皇后さまという高い地位の方にしては、ずいぶんと質素でびっくりしたのです。経費でいうと「クリーム5種12個(単価1800円)」というのが基礎化粧品を指しているらしくて、おそらく朝用・夜用の美容液の類も含まれているのだろうと推察します。
――それにしても、ひとつあたり2000円前後の基礎化粧品や口紅ですか。当時、私の祖母や母でもそれくらいは使っていた気がしますよ。
堀江 口紅は1本当時の価格で1500円。これを1年で3本。ほかには整髪料として、「加美の素(※正確な製品名は加美乃素)」など。加美乃素シリーズは、皇后さまのお気に入りだったようです。昭和後期になると、ハイクラスな化粧品がどんどん登場しましたが、そういうものはお使いにならなかったようです。
対照的な話になりますが、19世紀末のオーストリアのエリザベート皇后は美容に命をかけていたこともあって、化粧品などはほぼすべてが特注品でした。具体的な金額はわかりませんが、それと比べると驚くほど堅実でいらっしゃいますね。
化粧品というものは、化学の研究の進歩とともに、20世紀後半になって飛躍的に品質向上し、値段も一気に下がったのです。エリザベートやマリー・アントワネットは、現代日本のコンビニ化粧品の足元にも及ばないレベルの化粧品しか使えなかったという話があるのですが、エリザベートがウィーン宮廷薬局に特注した基礎化粧品のクリームも、レシピを見ると、バラ水にラノリンや無塩バターをくわえて撹拌(かくはん)したものにすぎず、昭和の皇后さまは値段はリーズナブルでも、確実にそれ以上のクオリティの美容ライフを送っておられたのではないかと思うんですけれどね……。
今回は昭和天皇ご一家の身の回り品について、内廷費のリストから振り返りました。