コラム
オンナ万引きGメン日誌

万引きGメンになって45年、ついに引退を決意したワケ――「自分を許せなかった」事件の顛末

2023/03/18 16:00
澄江(保安員)
写真ACより

 こんにちは、保安員の澄江です。

 唐突な話ですが、いよいよ現場から離れる決心がつきました。立ち仕事に伴う足腰の痛みや、目が悪くなってきたことも大きな理由といえますが、先日、暴行被害を受けたことから決心がついたのです。今回は、その時のことについて、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、ショッピングセンターM。私鉄沿線の駅近くに位置する商業ビルの地下1階にあるワンフロアの大型店で、1階に100円ショップや美容室、2階にはゲームセンターが入居しています。

 ここでの勤務は、今回で3回目。惣菜や生鮮食品をはじめ、コスメドラッグや衣料品の被害が多発しており、過去2回の勤務においても複数の捕捉がありました。主な被疑者層は、少年と高齢者で、犯行時間の予測が難しく、気の抜けない現場といえるでしょう。

 この日の勤務は、午前11時から午後7時まで。ひどく寒い日で、いつもより客入りは悪いものの、それなりに混雑する店内の巡回を続けます。

「あの人、なにをやっているのかしら?」

 午後2時頃。冷蔵ではないペットボトル売場で、棚からお茶を取っては戻すという若い男性が目につきました。おそらくは、20代後半から30代前半くらいの人でしょうか。どことなく芸人のもう中学生さんに似ている人です。左手にはビニール袋に入った複数の駄菓子が握られており、棚取は見ていないものの、この店の商品である気がしました。そのまま行動を見守ると、何種類ものお茶を手にしては戻すという行為を何度か繰り返した男性は、1本の緑茶を手にしてレジのほうに向かって歩き始めます。

おとなしそうな万引き男が豹変!

 手にある商品を、すべて精算したとしても、ほんの300円足らずの話です。おそらくは精算するだろうと思いながらも、念のために見守ると、どこか気まずそうな顔でレジ脇をすり抜けた男性は、そのまま出口につながるエスカレーターに乗り込んでしまいました。商品単価が安く、あまり気乗りしませんが、犯行を現認してしまった以上、見逃すことはできません。

「あ、飲んだ!」

 声をかけるべく一定の距離を保ちながらエスカレーターに乗り込むと、上がり切ったところでペットボトルのフタを開けた男性は、後方を振り返ってからゴクリとひと口飲みました。まだ敷地内の状況にありますが、未精算の商品を開封して口をつけたので、ここで声をかけます。

「こんにちは、お店の者です。それ、飲んじゃって大丈夫ですか?」
「え? ごめんなさい……」

 男の横について、顔を覗き込むようにしながら声をかけると、まるで子どものような言い方で対応されました。見た目の年齢と合わない態度に、どこか病的なものを感じます。

「ごめんなさいって、どういうこと? お金を払っていないなら、ちゃんとしていただかないと」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「ここで謝られても仕方ないから、事務所で話を聞かせてもらえますか?」

 事務所への同行を求めると顔色を変えた男は、いきなり大声を出して、逃げるように身を捩りました。

「嫌だ! お父さんに怒られるから、絶対に行かない!」
「じゃあ、いますぐ警察を呼ぶことになるけど、それでもいい?」
「警察? 嫌だ、お父さんに怒られる! もう! 離せ、離せよ!」

 すると、大きく右手を振り上げた男が、鉄槌の形で私の顔を殴ってきました。腕をつかんで抵抗するも、空いている左手で顔や頭を何度も殴られたため、たまらずに背を向けてしまいます。

 その隙に逃走されましたが、痛みと衝撃で追いかける気力はなく、ただ呆然と顔を押さえて男の背中を見送りました。男の手にあったお茶と駄菓子は、いつの間にか床に放置されており、商品を取り返す使命は果たせたようです。

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