オンナ万引きGメン日誌

万引きGメンになって45年、ついに引退を決意したワケ――「自分を許せなかった」事件の顛末

2023/03/18 16:00
澄江(保安員)

驚愕の結末に引退を決意した万引きGメン

「大丈夫ですか? もう警察は呼びましたから、ちょっと待っていてくださいね」

 するとまもなく、ビル管理を担当する警備員が駆け寄ってきました。その様子からして、あまり積極的には関わりたくないようで、男を追いかける素振りはありません。

 痛々しげに顔を覗き込まれてから救急車も呼ぶといわれたので、そこで初めて自分の状態が気になりました。トイレに駆け込み鏡を見れば、左頬が腫れ、左目の白眼部分が真っ赤に充血しています。まるで試合後の格闘家のような顔になっているので、水をハンカチにしみこませて固く絞って、叩かれた場所を冷やしながら警察官の到着を待ちました。

「大丈夫ですか? 無理はしなくていいので、救急車が来るまでの間、話を聞かせてください」

 現場に臨場した刑事は、私から簡単な事情聴取を済ませると、すぐに防犯カメラ映像の確認にいきました。まもなくして犯人の映像は見つかり、その人着が無線で共有されると、早速に緊急配備が敷かれて逃げた男の探索が開始されます。コロナ禍で忙しいのか、救急車はなかなかきません。


 その間、窃盗の事実確認をするために店内の防犯カメラ映像を検証した結果、なんとも気まずい事実が発覚しました。男が店に入ってきた時の様子を確認すると、ペットボトルのお茶とビニールに入れた駄菓子を手に持って店に入ってきていたことが確認されたのです。

「万引きはしていないようですね。行動からすると、ちょっと変わった人に見えるけど、実際はどうでした?」
「確かに、少し病的な感じはしました。でも、お茶を盗っていないなら、誤認になっちゃうかもしれないので、被害届は大丈夫です」
「そうですか。もし病気の人だとすれば、行為能力の問題もあるから、そのほうがいいかもしれませんね」
「しっかり棚取は見たのですが、こんなこともあるんですね」