“中学受験”に見る親と子の姿

中学受験全落ちで公立に進学、難関大合格後も続く“悪夢”――彼が選んだ就職先とは?

2023/02/11 16:00
鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

中学受験全落ちで公立に進学、難関大合格後も続く“悪夢”――彼が選んだ就職先とは?
写真ACより

 今年も中学受験が終了した。「合否」はまさに「天国と地獄」だが、第1志望校の合格者は3人に1人と言われている世界なので、涙をのんだご家庭のほうが圧倒的に多いのだ。

 中学受験生は12歳なので、些細なことで調子を崩し、本番で実力が発揮できないケースもある。受験し続けても、なかなか合格が得られないというご家庭も取り立てて珍しいものではない。しかし、12歳で「不合格」というレッテルを貼られ続けられた子の心の痛みは想像を絶する。

 英太君(仮名・現大学4年生)も壮絶な苦しみを背負った1人だった。

「僕は親に無理矢理、中学受験塾というものに入れられたんです。母親主導だったと思いますが、ウチは両親揃って中学受験の経験はないんですよ。多分、母はどこからか『地元の公立中に行かせるより、中学受験をさせたほうが、将来的に“うまみ”がある』という情報を仕入れてきたんだと思います(笑)」


 今では、こんなふうに屈託なく話してくれる英太君だが、中学受験のことを冷静に振り返ることができるようになったのは、つい最近だという。

「僕は小学5年生の秋に入塾したので、中学受験生としてはかなり出遅れていました。したがって塾でも最下位クラス。偏差値も最初は40台前半。小学校の成績は良かったほうなので、正直この結果には驚きました」

 英太君は元来の負けず嫌いな性格もあって、本人なりに受験勉強を一生懸命頑張り、6年秋には偏差値を55まで伸ばすことに成功したそうだ。

「入塾当初は、中学に公立と私立があるなんてことすら知りませんでしたから、何をやらされているのかも意味不明だったんです。でも、徐々に受験生らしくなったようで、6年秋にはZ学園に入学する気満々になっていました」

 Z学園は偏差値60超えの超人気校である。中学受験の標準的なパターンとしては、Z学園を第1志望校とするならば、押さえ校として数校を受験しておき、万全な受験日程を組むのがセオリーだ。


 当然、英太君自身もZ学園を軸に、併願校数校を受験するものと思い込んでいたという。

 ところが、実際に受験したのはZ学園3回とT学園3回。T学園もZ学園以上の高偏差値を誇る人気校である。

「親がそこしか受験を認めなかったんです。塾の先生には『玉砕させる気ですか?』と言われたようですが、『偏差値60超えの学校以外、行かせる意味がない』と突っぱねたとか……」

 6年秋、英太君の平均偏差値は53あたり。彼は、業界用語で「特攻受験」と呼ばれる過酷な受験に臨むことになった。

「Z学園とT学園を3回ずつ受けて、案の定、全滅です。両親は『ダメなら公立に行けばいいだけ』と聞く耳を持ちませんでしたが、僕には悔しさしか残らなかったです……」

 合格発表時、特攻受験に挑んだ“小さな戦士”の目に映ったのは「番号のない掲示板」のみ。英太君の気持ちを思うと胸が痛む。

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