「金を返さないまま死んだら成仏できないぞ」病院での取り立てで社長逮捕……闇金王国がついに崩壊へ!
「警察だ。そのまま動かないで。なにも触るなよ」
翌日、事務所を開けてまもなく、警察の強制捜査が入りました。捜査員の中には、女性の姿もあり、皆一様に「捜査」と書かれたえんじ色の腕章をつけています。事務所に入ってくるなり、3人1組の体制で社員2人を取り囲んだ捜査員は、それぞれの氏名を確認した後、その場で逮捕状を読み上げました。
「これからね、強盗致傷の容疑でね、あなたたちに出ている逮捕状を執行しますね。時間はね、午前8時50分ね。何か言いたいことは、ありますか?」
「強盗致傷って、なんだよ? ウチは、貸した金を返してもらっただけだ」
「あなたの話も、後でゆっくり聞きますからね。それではね、手を出していただけますか」
語尾に「ね」をつける癖のある捜査員が2人に対する逮捕状を読み上げると、すぐに手錠がはめられ、あっという間に連行されていきました。
「これから強制捜査を開始しますので、協力してください」
数人の刑事が社長室に入ると、私と愛子さんは経理部で、女性捜査員のコンビに両脇を挟まれました。身分証明書を確認された後、台帳や現金、預金通帳などの保管場所を指差した写真を撮られて、その中身を全部出すように指示されます。
手許の現金を数え、通帳や手形小切手の詳細を書きとった女性捜査員は、それらを警視庁と書かれた封筒に詰めていきました。事件の発端となった電気工事屋の関係書類だけは、別の箱に集められて、厳重に封印されていたことを覚えています。
「貸金業規制法と出資法違反の容疑で、あなたを逮捕します」
それからまもなく、年配の捜査員によって社長に対する逮捕状が読み上げられると、その場で手錠がはめられました。手錠姿で俯きながら連行される社長の哀愁漂う姿を見て、自然と涙があふれ出たことを思い出します。
「もしかして、私たちも逮捕されるんですか?」
「それはないと思いますけど、あなたたちからも話を聞かないといけないから、警察署までは同行してもらいます。すぐに出かける準備をしてください」
みんなが別々の警察署に連行されたことで、取り調べ中も不安な気持ちでいっぱいでしたが、その日の夜に帰宅を許されて安堵しました。すぐに愛子さんに電話をかけると、今しがた解放されたそうで、事務所で落ち合おうと提案されます。
「大変だったわね。私たちまで連れて行かれるとは思わなかったわよ」
「はい、びっくりしました。社長、すぐに帰ってきますよね?」
「どうかしら。顧問の弁護士先生とは面識あるから、明日確認してみるわね。ねえ、おなかすいてない? 少し片づけたら、食事に行きましょうよ」
「そういえば、お昼を食べ損ねました。かつ丼とか、出前でも取ってくれるのかと思ったけど、取調室は飲食禁止みたいで」