「金を返さないまま死んだら成仏できないぞ」病院での取り立てで社長逮捕……闇金王国がついに崩壊へ!
こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。
2010年、出資法と貸金業法が改正されたことにより、行政や警察による取り締まりも厳しくなりました。それにもかかわらず、うちの会社は高利での貸付や強めの取り立てを継続したため、ついていけない社員が次々と退職してしまったのです。
その筆頭は佐藤さんで、体をかけてまではできないと、至極当然なことを理由に退職されました。入社してから現在まで、秘かに抱いていた私の恋心も、ここに終了。最強タッグのパートナーである藤原さんも、その後に続き、それからまもなく小田さんや伊東部長まで退職してしまいます。そのままなし崩しの状態に落ち入り、まるで会社の事業に見切りをつけたように営業社員の退職が相次ぎ、一時期は愛子さんと私、それに社長の3人で事務所を運営した時期もありました。
新規貸付は行わずに、ひたすら決済を待つ後ろ向きの営業スタイルで、不渡り時には社長一人で対応されます。今まで受け持っていた仕事のほか、登記書類の作成や現場の確認なども任されるようになったため、お給料は上がったものの、常に不機嫌な顔でピリピリしている社長と過ごす時間が苦痛でなりませんでした。
退職者の穴埋めをするべく、就職情報誌で募集をかけると、中学校からの同級生だという20代前半の男性2名が採用されることになりました。人事は社長の独断で、私が口出しをするわけにはいきませんが、どう見ても営業向きではないタイプなため不安になります。
2人ともに体格が良く、パンチパーマをかけているので、はっきり言えばヤクザにしか見えないのです。体に入れ墨も入れており、親指の付け根にある点で描かれた三角形は、服役経験を誇示するためと聞いてあきれました。10代の頃には暴走族をやっていたらしく、その時代の逮捕歴が、親指の付け根に反映されているそうです。
彼らの前職は、10日で3割という暴利で金を貸すヤクザ系の闇金融業者の一員で、今でいう半グレの人といったところでしょうか。前勤務先の顧客リストを持ち出してきており、入社直後から新規の貸付先を多数獲得してみせましたが、筋悪客(信用状態の悪い先のこと)ばかりで、社員の質に合わせて客層も変わっていきました。
「きっと近いうちに、なにか大きなトラブルが起きる」
社員の出入りに伴い、自然と湧き出る不吉な胸騒ぎを抱えながら日常業務をこなしていくと、その予感は意外と早くに的中することになりました。彼らが入社してから3カ月ほど経過したところだったでしょうか。心臓を悪くして緊急入院している間に、やむなく不渡りを出してしまった電気工事屋の債権を回収するべく病院まで取り立てにいき、そこで事件を起こしてしまったのです。
「どうせ死ぬなら借りた金を返してから死んでくれ」
「ウチの金を返さないまま死んだら成仏できないぞ」
見舞客を装って難なく病室に入った2人は、病床につく社長の耳元で脅迫的な物言いを繰り返しました。
「今、いくら持っているんだ? 財布を出してみろ」
ベッド脇にある私物入れから財布を取り出させて、嫌がる債務者の手を振り払って財布の中に手を突っ込み、病院代として持っていた8万円の現金を抜き取ってしまったのです。すぐに2人は病院を後にしましたが、隣のベッドを使う患者がやりとりの一部始終を見ており、警察に相談するよう社長に進言したことで事件が発覚。財布に手を入れる時、揉みあいの中で社長の手首をつかんだようで、そこが赤黒く痣となっていたことから強盗致傷の容疑で捜査が開始されてしまいます。