老いゆく親と、どう向き合う?

自称「姫」の母親がクレーマーに! 病院で見つけた生きがいは「若い男性スタッフ」だった

2022/12/18 18:00
坂口鈴香(ライター)
自称「姫」の母親がクレーマーに! 病院で見つけた生きがいは「若い男性スタッフ」だったの画像1
Getty Imagesより

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

母の骨折に姉は「自傷行為」

 「姉との関係はずっと悪かった――姉妹で『連絡を取らないよう』仕向けていた母の意図とは」では、竹本多恵子さん(仮名・56)と姉の志津子さん(仮名・58)が、“姫”と呼ぶ自己中心的な母の久江さん(仮名・80)に振り回されていた。

 久江さんは、多恵子さん姉妹に心配してほしくて、何かあるとすぐに救急車を呼ぶ。ブラックリストに載っているのではないかというほど頻繁に救急車を呼んでは、多恵子さん姉妹をうんざりさせていたが、とうとう本当に救急車を必要とする事故が起こった。

 久江さんが、自宅の階段から落ちて腰を骨折したのだ。もちろん、いつものように救急車を呼んで、行きつけの救急病院に搬送された。


「私と姉も連絡を受けてすぐに病院に向かいましたが、しょっちゅう大騒ぎをしては救急車を呼んでいるので、『またか』としか思えませんでした。私以上にこき使われている姉にいたっては、『もはや自傷行為ね』と言う始末です。私も、母ならやりかねないとさえ思いました」

 病院でも、久江さんは“通常営業”だった。

「すっかりクレーマーと化しています。ケアワーカーさんや看護師さんがしてくれることすべてが気に食わなくて、いちいち文句をつけては謝罪させるんです。それでも気が済まなくて、師長やら事務長やらを呼びつけて謝罪させています。後で、私や姉がお詫びに回っていますが、職員の皆さんの間で、母は腫物扱いです。お世話になっているのに申し訳なくて……」

 当然、久江さんのわがままは多恵子さん姉妹にも向かう。「あれが足りない」「これも持ってきて」と、毎日のように連絡が来ては呼び出されているという。

 姉の志津子さんは、久江さんの要求にこたえて、言われたものを持って病院に行くが、「これじゃない」と言われ、取りに戻らされている。「また次に来るときでいいわよ」とは絶対に言わないところが、久江さんらしい。


母がリハビリで見つけた生きがい、若い男性スタッフを気に入って――

 とはいえ、久江さんも80歳だ。

「さすがの母も、今回ばかりは回復は難しいでしょう。退院できても車いす生活になるだろうと。母もそれがわかっていたから、私たちや病院の職員さんたちを困らせていたんだと思います」

 多恵子さん姉妹は、いよいよ“姫”の介護生活がはじまるのだと覚悟していた。ところが、久江さんはスイッチが入ったようにリハビリに励みだした。若い男性のリハビリ担当スタッフを気に入ったのだ。

「リハビリの時間、先生が自分だけに注意を向けてくれることが、母のプライドをくすぐったのでしょう。先生にはクレームをつけるどころか、笑顔で素直に従っています。先生も気難しい高齢者には慣れているんでしょう。母をうまくおだててリハビリを進めてくださっていて、さすがプロだなと感心しています」

 ついに久江さんは車いすも卒業して、無事退院した。骨折前より元気になったくらいだと多恵子さんは苦笑する。

 久江さんは退院後も毎週、病院のリハビリに通っている。

「お化粧もばっちり、“満艦飾”というくらい飾り立てて、いそいそと出かけています。もはやリハビリで先生に会うのが新しい生きがいになっているようです。恐るべきことに、母はさらにパワーアップしているんです」

 介護が必要にならなくて済んだことに、多恵子さん姉妹はホッとしてはいるものの、これから先、久江さんのパワーについていけるのか、新たな不安が生まれた。久江さんに負けないよう、体力をつけようと姉と話しているところだ。

坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2022/12/18 18:00
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