老いゆく親と、どう向き合う?

30代で経験した両親の看取り――「楽しかった」と介護を振り返る娘の“原動力”とは?

2022/11/06 18:00
坂口鈴香(ライター)

父の体調が急変、すでに看取り期だった

 試行錯誤を繰り返していた中村さんだったが、博之さんの介護のフェーズは一気に進んだ。精神科病院から退院して5カ月たった頃だ。

 ホームから博之さんの肝臓の数値が悪いという連絡が来たのだ。「がんなど重篤な病気が考えられるが、博之さんの体力や認知状態からすると、検査や手術は難しいだろう」と伝えられた。このとき9月。年末まで命がもつかわからないほど重篤な状態だという。博之さんが問題行動を繰り返したのは、体調が悪かったのが原因だったのかもしれない、と符号が合った気がした。

 さらに数日後、ホームから「博之さんの腫瘍マーカーが上昇している。呼吸も浅い」と連絡が来た。すでに看取り期であることを示唆されたのだ。

 中村さんは、晃子さんの看取りから1年もたたないうちに、博之さんにも死期が近づいていることに衝撃を受けながらも、行動は冷静だった。ホームには緩和ケアをお願いするとともに、晃子さんの最期のように、ホーム近くのホテルに滞在して博之さんのもとに通うことにした。

 幸い、博之さんは痛みを訴えることもなく、簡単な会話もできた。中村さんは、博之さんの友人たちに連絡して、会いたいという人とビデオ通話をセットしたり、「つらくて顔を見られない」という友人から送られてきた昔の写真を博之さんに見せたりした。


「困惑したのは、父のこの状態がどれくらい続くのかということ。3つ並行してやっていた仕事のうち2つは休めたものの、1つは休めなかったので、ホームのある市から都内まで通っていました。母の看取りは1~2週間でしたが、休ませてもらうにしてもどれくらい休むことになるのか、判断に迷いました」

 先の見えないトンネルは、10日後には出口が見えた。中村さんが仕事先からホームに向かっていると、「危ない」との連絡が来た。

「ホームに着いて、私が寝るためのベッドをつくってもらっている間に、父は息を引き取りました。母は最期までずっとついていられたのに、父は私がほんのちょっと席を外している間に……。でも友人から人は亡くなるときを自分で選んでいると言われて、ああそういうことなんだと気持ちが楽になりました」

 中村さんは、晃子さんの葬儀から1年もたたないうちに、博之さんの葬儀を行うことになった。

――続きは11月20日公開


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坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2022/11/06 18:00
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