コラム
【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

エリザベス女王の棺の中は……ヨーロッパ王族に流行した、国王の特殊な埋葬方式とは?

2022/10/08 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

――ええっ! 心臓のミイラ化ですか!

堀江 徳の高い王様ほど、内臓、遺体が腐敗しないという伝承もあったりしたんですよ。現代でも、心臓、内臓、肉体を分ける三分割埋葬に近い埋葬法は、ハプスブルク家の一部の方の葬儀では行われていることがわかっています。

 ハプスブルク家は20世紀初頭に革命によってオーストリアの帝位を失いましたが、最後の皇帝の皇后だったツィタさんが1989年に亡くなった時も、厳格な三分割埋葬ではなかったにせよ、それに類する分割埋葬が行われています。また2011年、ハプスブルク家の当主であり、欧州議会議員を長い間勤めたオットー・フォン・ハプスブルクさんの葬儀でも同じように、分割埋葬が実行されています。

――つい最近まで継承されていることが判明してるんですね。

堀江 実はハプスブルク家も19世紀には、まるで遺体解剖のような三分割埋葬を廃止していたのですが、20世紀後半以降、なぜか復活を遂げたという……。

 ただ、これら三分割埋葬は主にカトリックの王族の間で主に行われている風習で、イギリス王家は16世紀以降、カトリックから英国国教会に宗旨変えしているため、エリザベス女王のご遺体については「よくわからない」というしかありません。

――ちなみに、心臓や内臓は容器に保管されると聞きましたが、それはその後、どうなるのですか?

堀江 フランスの王家だったブルボン家の例でいうと、ランスという都市にある聖ドニ大聖堂に、心臓や内臓を納めた壺を置いていた場所、遺体を納めた棺を安置する場所がそれぞれ別にあったようです。

 18世紀末のフランス革命期には、お棺の中身は暴かれてしまっていますし、心臓などを収めた壺は貴金属製だから、売り飛ばされました。その中に入っていた内臓も、絵の具に混ぜて使うと深い陰影が出るという考え方が当時はあったので……。潰され、油絵の具に混ぜられ、薄暗い雰囲気の静物画になっちゃったものを見たことがありますよ。

――すごい話ばかりですね。革命が起きるとそれまで庶民が知ることのなかった王室の秘密が明らかになるということでしょうか。イギリス王室はどうか安泰でいてほしいものです……。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2022/10/08 17:00
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