私は元闇金おばさん

「闇金」新入社員のお仕事とは? 夜逃げして消えた子どもの友達対応に「胸が痛む」

2022/08/06 16:00
るり子(ライター)

夜逃げした少年に「連絡帳を届けに来た」――同級生の問いかけに胸が痛む

 朝礼終了後まもなく、連帯保証人の代理人を名乗る弁護士から、早速に電話がかかってきました。重要な電話がかかってきたときには、その通話をスピーカーマイクで行います。相手の出方や勢いを探るため、社員全員で共有して、今後の方針を決める材料にするのです。

「依頼人の所有物件から、すぐに退去してください。これ以上、強行的な取り立てを続けるなら、刑事告訴しますよ」
「ウチは契約通りにやっているだけだ。期限の利益を喪失している以上、一括決済以外は受けつけられない。警察を呼んでもいいし、訴えるなら好きにしてくれ」

 弁護士相手にも臆することなく、むしろ挑発的に対応される営業部長の姿に、会社の勢いみたいなものを感じました。実際、すぐに警察から電話が入りましたが、民事だからと一蹴して、まるで相手にしません。

「お前は、裁判官か? 民事の話に口を出すなよ。よく考えてモノを言ってこい」
「そうじゃないけど、あまり強引にやらないでくださいよ。なんとかお願いします」

 民事不介入の原則を楯に、弁護士にも怖いものなしといった姿勢で応対する営業部長。その姿を繰り返し目撃することで、この組織にいる自分が強くなった気がしたことを覚えています。


 その後、占有物件の玄関に貼られた貼り紙を見たと、銀行や取引先、町内会の方などから安否伺いの電話が相次ぐも、担当者不在を理由に応対しません。夕方になって、お孫さん(連帯保証人である息子の子ども)の友人を名乗る少年から「連絡帳を届けに来た」と連絡があった時には、何と答えたらいいかわからず困惑しました。

「○○くん、明日の社会科見学には来れるの?」
「ごめんね。明日は、ちょっと行けないかもしれないわ」
「学校には、いつから来られますか?」
「……具合がよくなったらね」

 無垢な声で問われたのに、適当な嘘を言って誤魔化した事実、そしてこれが私の仕事であることに、胸が痛んだのは言うまでもないでしょう。

 初日は、伝票の書き方や信用情報端末の扱い方、印鑑証明の管理方法などを先輩の愛子さんに教わりましたが、この日は社長による実務研修が実施されます。午前中に、利息の計算方法や手形小切手の仕組み、不動産謄本の見方などを教わりましたが、初めて聞く言葉ばかりで混乱しました。その上、早口で滑舌の悪い社長の言葉を聞き取るのが大変で、ひどく疲れた記憶があります。

 おそらくは、社長はコンプレックスに感じていたのでしょう。なんと言ったのか聞き取れず、やむなく聞き返すと、あからさまに顔色が変わり不機嫌になるので、それが怖くて聞き返すこともできなかったのです。いまでいえば完全なパワハラ行為と思われますが、その概念すらない時代の話なので、当時は泣き寝入りするほかありませんでした。


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