芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』
是枝裕和監督『ベイビー・ブローカー』、鑑賞前に知りたい韓国「ベイビーボックス」の実態
2022/06/24 19:00
こうした歴史の延長線上に、今回、名を刻むことになった是枝が撮り上げたのは、日本の「赤ちゃんポスト」にあたる韓国の「베이비박스(ベイビーボックス)」である。ベイビーボックスを素材に家族の在り方を追求した本作は、「韓国社会の現実を見つめた日本人監督」という意味では大島と、「日本人が撮った韓国映画」という意味では中平と共通しており、これら2つの流れの合流地点を築いたといえるだろう。
是枝はこれまでにも、フランス資本でフランスやアメリカの俳優たちと『真実』(2019)を作っているし、それ以前には、韓国の名女優、ペ・ドゥナが是枝の『空気人形』(09)で主演している。もともと、国境を越えた作品づくりの経験が豊富な上に、ポン・ジュノ監督やソン・ガンホらとも親交を深めており、韓国映画界と是枝は蜜月関係にあったと考えられる。そんな背景を考えれば、是枝が『ベイビー・ブローカー』を撮ったのも自然なことに思える。
是枝自身の発言によると、日本の赤ちゃんポストと同じような施設が韓国にも存在すること、そして、このポストに入れられる赤ちゃんの数が日本の約10倍だと知り、興味を持ってリサーチやシナリオに取り掛かったという。今回のコラムでは、韓国のベイビーボックスの実態や、それをめぐる問題を中心に、是枝の目に映った韓国社会の現実とは何かを考えてみたい。