サイゾーウーマン芸能韓流映画『私の少女』が描く「LGBTと韓国」 芸能 [連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』 「同性愛は治療で治る」韓国・ユン大統領秘書の発言が炎上! 映画『私の少女』が描く「LGBTと社会」の現在地 2022/05/20 19:00 崔盛旭(チェ・ソンウク) 崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』 『私の少女』はハッピーエンドではないが……見えてくる現実と希望 本作において、未熟な韓国社会を象徴しているドヒが、継父や祖母の暴力から解放され、成長と成熟を遂げるためには、どうすればいいだろうか? 映画では「祖母の死に関与(疑い)し、継父を誘惑して罠に陥れる」ドヒの行動が描かれるが、そこにはLGBTを「病気」と断定し、「不道徳で不潔で罪」であるとしてきた「異性愛イデオロギー」にとらわれている前近代的な儒教的思想を断罪し、理性や論理に頼らない力ずくの脱却を訴える、作り手の強烈なメッセージを見いだすことができる。 ドヒと共に村を後にするヨンナムの姿は、決してハッピーエンドとしては描かれない。しかし、それまでの抑圧から解き放たれようとしている2人を通して、韓国の現実と希望が提示されたといえるだろう。 韓国には「끼리끼리(~同士)」文化というものがある。「男女七歳にして席を同じゅうせず」という言葉を引くまでもなく、幼い頃から「男女別々」の観念が頭に焼き付いている社会において、「男同士」「女同士」という概念はごく自然な文化であり、そこでは手をつなぐ、肩を組む、抱き合うといった同性同士のスキンシップは、当たり前のように「友情の印」を意味していた。 だが、同性同士の「ホモソーシャル」な関係は、「ホモセクシュアル(同性愛)」を徹底的に排除する異性愛イデオロギーの上に成り立っているため、そこにわずかでも同性愛の気配があると、「~同士」文化は根底から崩れることになる。 韓国社会におけるLGBTへの異様なまでの拒否反応は、己が築き上げた儒教、異性愛、ホモソーシャルな伝統の崩壊に対する無意識の恐怖であり、その脅威がすでに現実のものとなりつつあることを、この映画は教えてくれるのである。 崔盛旭(チェ・ソンウク) 1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。 前のページ12345 最終更新:2022/05/20 19:00 Yahoo 私の少女 【DVD】 “他国ごと”とはまったく思えず…… 関連記事 Netflix『未成年裁判』は“ほぼ実話”? モチーフになった事件と、ドラマで描かれなかった「犯行動機」のうわさ映画『野球少女』で描かれた、韓国初の女性野球選手はいま――物語とは決定的に異なる「悲しい」結末韓国映画『バッカス・レディ』4つのセリフが示す、韓国現代史の負の側面を背負う高齢売春婦の悲しすぎる人生人気の韓国映画『7番房の奇跡』、時代設定が「1997年」だった知られざる理由『エクストリーム・ジョブ』を韓国コメディ映画部門の歴代1位に押し上げた、韓国の国民食“チキン” 次の記事 スノ・目黒、岩本との“内緒”を暴露 >