「同性愛は治療で治る」韓国・ユン大統領秘書の発言が炎上! 映画『私の少女』が描く「LGBTと社会」の現在地
本作は、韓国映画界の名匠、イ・チャンドン監督が製作に名を連ねている。近年はプロデューサーとして、マイナーながら重要な作品を送り出しているイ監督の元からは、本作のチョン・ジュリ監督のみならず、『冬の小鳥』(09)のウニー・ルコントや、『君の誕生日』(19)のイ・ジョンオンといった女性監督が多く輩出されていることは、注目に値する。
おそらく、韓国社会のまだ語られていない部分を、女性監督ならではの繊細で緻密な視点から追求してほしいという期待がイ監督にはあるのだろう。
「弱者(子ども、女性、同性愛者)への暴力」の理不尽さをリアルに描いた『私の少女』は、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で上映され、国内外の映画祭で多くの好評を得た。さらに、チョン監督の新作『다음 소희(次はソヒ)』(22)は、今年のカンヌでも批評家週間の閉幕作品に選ばれる快挙を成し遂げている。
チョン監督の手腕はいうまでもないが、主演ながら『私の少女』にノーギャラで出演し、『다음 소희』でも主役を務めるペ・ドゥナの存在も重要だ。
これまでも、ポン・ジュノ(『ほえる犬は噛まない』『グエムル~漢江の怪物』)や是枝裕和(『空気人形』『ベイビー・ブローカー』)、ウォシャウスキー姉妹(『クラウドアトラス』『ジュピター』)といった世界の巨匠たちと仕事をしてきたトップスターであるぺ・ドゥナが、オファーが絶えないであろう中で『私の少女』の出演を選んだ。
それは、ペ・ドゥナ自身が誰よりも韓国社会の問題点と、韓国映画が何を描くべきかに対して自覚的であることを物語っているだろう。これからも、彼女が選ぶ仕事に注目していきたいと思わせてくれる、韓国が誇るべき女優である。
それでは、『私の少女』の内容を具体的に見てみよう。本作では、LGBTに対する差別と偏見だけでなく、家庭内暴力(DV)や児童虐待、いじめ、そして外国人労働者への暴力に至るまで、さまざまな形の暴力が描かれている。したがって、どの暴力に重点を置いて語るかによって複数の見方もできれば、韓国社会が抱える総体的な暴力の問題として扱うことも可能だ。
そのような意味でも非常に鋭さを持った作品といえるのだが、今回はLGBTに対する暴力を中心に、登場人物たちが象徴していることや、映画のメッセージについて探ってみたい。