『ちむどんどん』は対象年齢3歳~。ヒロイン・暢子一家の借金問題だって“なんとかなる”、史上最も“やさしい”朝ドラ
前述した、暢子にとっての「青いシークワーサー」や、暢子の兄・賢秀(竜星涼)がずっと頭に着けている「マグネット・オーロラスーパーバンド一番星」など、「アイテム」が重要な意味を持つのも本作の特徴だ。
現時点の時代設定である70年代前半、シークワーサーは沖縄県外ではなかなか手に入らなかったという。「東京編」に突入したため、今後暢子がピンチに面した際、お助けアイテムがないのが少し心配だが、ご安心あれ。暢子には「ヒロイン無双アーマー(鎧)」があらかじめ装備されているので、何が起こっても、必ずなんとかなる。さらに、上京前に母・優子(仲間由紀恵)から魔法の刃「ケンゾーナイフ」(亡き父・賢三[大森南朋]の名入り包丁)を授ったので百人力だ。
「魔法の呪文」の存在も欠かせない。“1面”(1週)につき最低1コールがノルマの言葉「ちむどんどんする〜」は、暢子のHPを上げる。視聴者にはさして「どんどん」が感じられなくても、暢子がそう言えばとにかく「どんどん」したことになるのだ。比嘉家に代々伝わる呪文「お願いします!」を唱えながらBボタンを長押しして頭を下げれば、すでにある借金はいつまでも返済を待ってもらえるし、新たな借金を重ねることもできる。さらに、「幸せになります!」を組み合わせることで「合体魔法」が成就する。
「沖縄編」“2面”(第2週)で口減らしのため東京の親戚のところに行くことになっていた暢子が、2つの呪文による「合体魔法」により、あっさりと行かないで済むことになったのには度肝を抜かれた。このシーンで、賢三に金を貸し、賢三が作った銀行からの借金の保証人にもなっている暢子の大叔父・賢吉(石丸謙二郎)の抜け殻のような表情が、何度でも見返したくなるほどに白眉だった。「2つの呪文を唱えれば、賢吉の『無の表情』が現れる」というマニア向けコマンドも、心に留めておきたい。
と、ここで、身も蓋もない話になってしまうのだが、結局「なぜかハンマー」というアイテムがこの物語のすべての鍵を握っているといっても過言ではない。これを使えば、だいたいのことは「なぜか」どうにでもなる。貧乏な比嘉家の子ども4人が全員、なぜか中学卒業後に働かず高校まで進学できて、長女の良子(川口春奈)に至っては名護の短大まで卒業できたのも、上京した賢秀がなぜか爆速でプロボクサーのテストに合格したのも、暢子が知らない住宅街で雨宿りしていたら、なぜか三線の音が聞こえてきて、沖縄県人会の会長宅に拾われ、風呂と食事と寝床の提供を受け、さらに仕事の世話までしてもらえたのも、「なぜかハンマー」が作動したからにほかならない。