『ちむどんどん』は対象年齢3歳~。ヒロイン・暢子一家の借金問題だって“なんとかなる”、史上最も“やさしい”朝ドラ
テレビ・エンタメウォッチャー界のはみ出し者、佃野デボラが「下から目線」であらゆる「人」「もの」「こと」をホメゴロシます。
【今回のホメゴロシ!】伸るか反るか! NHKが賭けに出た“愛すべきクソゲー朝ドラ”『ちむどんどん』の“魅力”に迫る
4月から放送を開始し、今週から「東京編」に突入した連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK総合)から目が離せない。本作は、沖縄本島北部の山原(やんばる)に生まれたヒロインとその家族が、本土復帰前後の時代を、貧しいながらも力強く生きる姿を描いた作品だが、エピソードの整合性やプロセスの積み重ね、人物の細やかな心情描写、それらすべてを「しゃらくせえ!」とばかりにすっ飛ばす“大胆”な構成が見事だ。
ここ数年、一部の朝ドラには、若年層の視聴者を開拓しようとするNHKの試みが見てとれる。別稿「朝ドラ『半分、青い。』脚本家・北川悦吏子の“革命的な表現手法”“トレンディ霊力”をホメゴロス」で、筆者は『半分、青い。』の作り手が「視聴者の理解力を小学校低学年程度に想定している」と書いたが、あれから4年の時を経て朝ドラはさらに“進化”を遂げた。本作はどうやら、「3歳児から楽しめる朝ドラ」として作られているようだ。
20年後の顧客を見据えたNHKの豪胆な戦略
3歳児の目と耳を引き付けるために、この朝ドラではとにかく「動きがわかりやすく大袈裟」であることが重視されている。「沖縄編」では、やんばるの美しい自然の中をヒロイン・暢子(稲垣来未/黒島結菜)が溌剌と駆けまわり、海に向かって両手を広げて叫ぶ。「東京編」では“破茶滅茶コント”風のドタバタ劇が展開。大音量の劇伴が「ここ、感動するところですよ」「笑うところですよ」と視聴者の耳たぶをつかんで無理やり引き入れようとする。また、わかりやすい“悪者”が登場して、なにかと「対決」の構図が置かれる。なんだかんだあってトラブルが解決して「ちむどんどん(胸がわくわく)」する。だいたいこのパターンの繰り返しだ。
「苦難」や「試練」の描写を極力避けるあたりも「お子様向け」の“やさしい”作劇と言えよう。本土復帰50周年にちなみ返還前後の沖縄を舞台に据えながら、基地問題も米兵もコザ騒動も出てこない。時代性が伝わってこない。戦争とアメリカ統治下の時代を生き抜いた沖縄の人々の苦しみも、そこから立ち上がるたくましさも、ほぼ描かれない。もちろん朝ドラという枠ならでの制限は多分にあろうが、いくらでも表現の方法はあるはずだ。
ともあれ、お子様向けということなら致し方ない。『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)とセットで、ぜひ母子で見てもらいたい、制作側はそんな期待を『ちむどんどん』に寄せているようにも見える。現在3歳のお子様たちも20年後には大切なお客様。未来の受信料支払者を丁重に扱う、NHKの商魂とチャレンジ精神に感服するばかりだ。