コラム
オンナ万引きGメン日誌
「やられた!」目の前で煙のように消えた万引き犯――ベテランGメンが執念の追跡で捕まえた犯人の正体!
2022/05/14 16:00
内部不正事案の場合、本来であれば一度見送り、クライアントの指示を仰いでから声をかけるのがルールです。しかしながら女はテナントの従業員で、クライアントの社員ではないので、中まで追いかけて声をかけることにしました。朝のこともあるし、いま盗んだ商品を食べられてしまえば証拠隠滅されることにもなるので、すぐに決着をつけたかったのです。
「お疲れさまです。D社の保安です」
「え? ああ、お疲れさまです。なんですか?」
「先ほど売り場で手にした商品のご精算、まだのようですが、どうされるおつもりですか?」
「……いや、払いましたけど」
否定されたものの、ひどく動揺しており、彼女の顔をみれば自白しているのと変わらぬ状況にありました。すると、私たちの様子を呆然としながら遠巻きに見ていたモバイルショップの店長らしき男性が、気まずい様子で私のそばに来て耳元でささやきます。
「お疲れさまです。ここの責任者ですけど、彼女、なにをしたんですか?」
「ご本人がいいなら別ですけど、私からお話しするわけにはいかないので、その商品を持たせて、事務所まで一緒にきてもらえますか?」
本人が認めていない段階で、私の口から事実を告知するわけにはいきません。大体のことは察しているだろう店長も、あえて詳しいことは聞かずに女を立たせて、一緒に行こうと促してくれています。