芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

Netflix『未成年裁判』は“ほぼ実話”? モチーフになった事件と、ドラマで描かれなかった「犯行動機」のうわさ

2022/04/22 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

 近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。そんな作品をさらに楽しむために、意外と知らない韓国近現代史を、映画研究者・崔盛旭氏が解説していく。

Netflixオリジナルドラマ『未成年裁判』

『未成年裁判』で主演を務めたキム・ヘス(Getty Imagesより)

 最近、NetflixやAmazonプライムなどインターネット上のプラットフォームを通して配信される韓国ドラマの中には、実在の事件を題材にしたり、韓国の現状を反映した作品が目立つようになった。そして世界のどこからでも見ることができるこれらの作品によって、韓国ドラマ自体が世界的に熱い注目を浴びる機会も増えている。第79回ゴールデン・グローブ賞テレビ部門にノミネートされ、俳優のオ・ヨンスが韓国初の助演男優賞を受賞した『イカゲーム』のブームは良い例だろう。

 だが、作中で起こる事件の背景や物語の土台となる歴史など、韓国人でなければ細部まで理解しづらいドラマも少なくない。そこで、本コラムではこれまで韓国映画を取り上げてきたが、これからはドラマも含めて紹介し、映画・ドラマを問わず作品を一層楽しむための手助けをしていきたいと思う。それによって、より多様な視点から韓国の近現代史や社会の実情が浮かび上がってくるのではないだろうか。

 今回選んだのは、未成年の犯罪をテーマにしたNetflixオリジナルの韓国ドラマ『未成年裁判』(ホン・ジョンチャン監督、2022)だ。全10話の構成で、未成年による殺人事件や家出、DV、いじめなど、実際の事件を多岐にわたってモチーフにしたこの作品は、一時Netflixの世界ランキング・ベスト10に入るほどの高い視聴者数を記録した。

 その背景としては、未成年犯罪とそれをめぐる法的判断の難しさが世界共通の普遍的な問題であることが挙げられるだろう。だからこそ、事件や判決内容をめぐる現実とドラマの違いを知ることにも意義があるように思う。

 なぜならその違いは、現実をドラマ化する過程で必然的に行われる変形(脚色)によるものであり、変形には現実(の結末)に対する不満や失望を乗り越えるための「期待や願望」が反映されるからだ。そして、その「期待や願望」こそが、現実の変化を求めて作り手が社会に訴えるメッセージであり、問題提起でもあるといえるだろう。

 では『未成年裁判』にはどのような現実が反映され、また変形が施されているのだろうか。今回のコラムでは、全10話のうち1~2話で描かれた「仁川(インチョン)女児殺人事件」と呼ばれる、未成年による実在の小学生女児殺人事件を取り上げて紹介する。

あらすじ

 8歳の男児が残忍な手口で殺害されたにもかかわらず、満14歳未満の「触法少年」に該当する犯人は刑事責任を免れることとなる。事件後、少年法の廃止を要求する社会の声が一気に高まる中、ヨンファ地方裁判所の少年部に赴任したシム・ウンソク判事(キム・ヘス)は、早速この事件を担当することになった。

 犯人のペク・ソンウ(イ・ヨン)が触法少年は刑事処罰されないと認識した上で殺人を犯したことから、シムは共犯がいると直感する。そんな中、未成年の女学生、ハン・イェウン(ファン・ヒョンジョン)が共犯として捜査線上に浮上し、シムは同僚のチャ・テジュ判事(キム・ムヨル)と共に、調査に着手する。

 徐々に明らかになる事件の全貌。シムは触法少年および未成年に対する最高刑を言い渡すが、被害者遺族の苦しみは、そんな判決では決して慰めることのできない、あまりにも過酷なものだった。

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