『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』火事でゆっくりと失ったもの「火事と夫婦と生きがいと ~高円寺『薔薇亭』の1年~」

2022/04/04 19:34
石徹白未亜(ライター)

『ザ・ノンフィクション』ゆっくりとした喪失のつらさ

 薔薇亭の跡地は、2020年年末の火災から1年たった21年の年末時点で、新しい建物の土台ができている状態だった。

 その1年の間、薔薇亭の焼け跡は立ち入り禁止のフェンスに囲まれたまま放置の状態が長く続き、その後、重機が入り解体され瓦礫になり、更地になり、更地となった土から草が生え……と、そのゆっくりとした喪失を見に来る夫婦の背中は切なかった。

 高円寺は庶民的で親しみやすい雰囲気とは裏腹に、新宿へのアクセスの良さや中央線ブランドもあり、家賃の面ではむしろ「お高い」街と言っていい。高円寺から離れたら家賃は安くなりそうだが、50年高円寺で店をやってきて、街になじみが深い老夫婦に、同地を離れろというのは酷だ。

 夫婦ともに高齢で、希望を失うのも無理もない状況にも思えるが、番組の最後ではぎくしゃくしていた家庭生活を立て直し、物件を探すなど二人の前向きさ、タフさを感じさせるものだった。報われてほしい。

 次週は「泣かないで アコーディオン ~シングルマザーの大道芸人~」。大道芸人のあんざいのりえは芸歴23年のベテランで、アコーディオン一つで息子を育てるシングルマザーでもある。しかしコロナがのりえ親子の暮らしにも直撃し……。


石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2022/04/04 19:34
吉祥寺・西荻窪・高円寺・中野
更地を見つめる目が切ない