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『ザ・ノンフィクション』レビュー
『ザ・ノンフィクション』マタギ志願の20代「生きることって… ~山とマタギと私たち~」
2022/03/15 11:35
結局、そのとき熊は巣穴にいなかった。番組を通して、狩猟において何も獲物がなく「ボウズ」で下山していた。マタギは、労働対価という意味での「コスパ」はこの上なく悪いのだが、若者たちはマタギになった理由として「生きたい」「お金じゃない」といったことを話していた。
この言葉だけ取り出すと青臭くも聞こえてしまうが、阿仁の山中で、鈴木さんが語る山の知識が若者を魅了するのはよくわかった。葉や枝のわずかな変化や、木についた小さな傷から熊の行動を読み解いたり、遭難時でも雪の中で炎が消えない木の皮を教えたり、あふれんばかりの鈴木さんの知識に惹きつけられ、「生きたい」「お金じゃない」という言葉が出てきたのだろう。
山で知る「山の知恵」の実感はとても強いと思う。ググっても核心にはたどり着けないし、ウィキペディアにも載っていない。なんでもネットにある時代に見えて、こういう「実感、手触り」はネットが非常に苦手とする領域に思える。
一方で、先週放送の厳しい丁稚修行のある「秋山木工」でも思ったが、それまで送ってきた日常よりも「かなり厳しい環境」に自らの身を置くことの意味を考えてしまう。そこまでしなくとも、日常の暮らしからでも、生きている実感や自身の成長は感じられるのではないか、とも思うのだ。
なお、今回阿仁の取材はほぼ1年間だったが、『ザ・ノンフィクション』の就業ものではつきものである「早期離脱者」がいなかったのはすごい。もちろん、放送されていないだけで、いたのかもしれないが。
次回のザ・ノンフィクションは「新・上京物語2022 前編 ~18歳 夢のあとさき~」。昨年3月の放送では「早期離脱」となってしまった浅草に本店がある洋食の名店「レストラン大宮」の今年度の新人について。
最終更新:2022/03/15 11:35