『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』 わだかまりのある親の最期に何を話す?「最期の願い ~父と息子と家族の2週間~」

2021/07/19 17:03
石徹白未亜(ライター)
『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。7月18日の放送は「最期の願い ~父と息子と家族の2週間~」。

あらすじ

 2021年3月、松下家の父・静徳は緩和ケア病棟から自宅に戻る。2019年に発覚した首の骨にできたがんが神経を圧迫するため、首から下を自力で動かすことはできず寝たきりの状態だ。なお、がんは肺にも見つかっており、手術や放射線治療など手は尽くしたが根治できなかった。

 静徳の最期の夢は、自身が校長を務める小学校の卒業式に出席すること。今年で定年退職を迎える静徳にとって「最後の卒業式」だった。

 静徳には3人の子どもがいる。一番上の33歳になる長男、将大は小学校時代にいじめを受け、中学校で不登校になるも母親には学校に行かないことを叱責され、父親は教師の仕事にかかりきりという状況だった。その後、音楽の道へ進むも人間関係につまづき、22歳で統合失調症と診断される。

 仕事が続かない状況が続き、家の中には変形したファンヒーター、壁に空いた穴など、将大の怒りの痕跡が刻まれている。将大は「親に対する憎しみが激しかった」「家族が笑っている顔も嫌で」と親、家族へのわだかまりを番組スタッフに話す。自宅に戻った静徳と将大は会話を交わすも、将大は静徳への不満を口にする。


 卒業式のスピーチで、静徳が児童たちに伝えたいことは「一番近くにいる人に感謝を伝えること」「近くにいる人の気持ちをわかってあげる」ことの2つだった。スーツを用意し、卒業式に挑むも、当日の体調が思わしくなく、移動中に息を引き取ってしまう可能性があるとドクターストップがかかり、出席を断念することになる。

 静徳は発話も難しくなっていくが、将大は静徳をマッサージしたり、卒業式の映像を病床の静徳に見せるなど看病する。また、15年ぶりに家族と同じ食卓につくようになるなど、少しずつ将大と家族との関係も和らいでいく。その後、家族に看取られ静徳は息を引き取る。

親の最期に、どんな会話をする?

 「小学校でいじめを受けてその後不登校」「両親の対応に絶望し荒れる息子」「家の壁には穴が空き、ファンヒーターはへこんでいる」という状況だけ見ると、相当荒んだ親子関係を想像してしまうだろう。しかし、静徳と将大が最期に交わした会話は、「日本の成人した息子と父親」というくくりで見たら、むしろ非常にコミュニケーションが取れている親子なのでは、と思った。

 最期の会話を抜粋する。

末期がん患者の家族のための「看取り」の教科書/吉沢明孝