暮らし
白央篤司の「食本書評」

山本ゆりさん「イライラしているときでも作れる」料理ほか、16人の料理家による役に立つ“食”エッセイ

2022/03/19 17:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 きじまりゅうたさんは、料理に必要なのは「段取り力」であると語る。「料理という作業は一度スタートしてしまうと、時を止めることはできない」だからこそプロセスにおいて何が必要で、何をどう用意しておけばいいのか。そこを考えることが大事だと。勉強や仕事でもこの力は活かされる、というのに納得。段取り力を養うために、きじまさんが“教材”に選んだのはなんとカップラーメンだ。いいなあ、このチョイス!

 「ええ、お湯入れればそれでOKじゃん」と思うなかれ。きじまさんが考える、カップラーメンを食べるために必要なプロセスは8つ(卵入りなので手間は増えるけれど、その分栄養価もよくなる)。読んでみると、「なるほど、普段無意識にこのぐらいのことをやっていたのか」と思わされるに違いない。そしてちょっと、自己肯定感も上がるかもしれない。

 その他、冨田ただすけさんの「“買えない料理”を作れることが、きっとこれからいろんな場面で自分を助けてくれる力になる」というメッセージも印象的。彼は「買えない料理」の一例として「焼き海苔にちょんと醤油をつけて炊き立てのごはんを挟むもの」なんてのを挙げる。何気ないものだが、確かに買えない。作りたてを食べられるというのは、自炊する人間が得られる大きな喜びのひとつなのだ。そんな小さなことが、自分を大きく助けてくれることもある。

 有賀薫さんの「食べることと出すことはセット」 という考えは万人に持っておいてほしいものだし、リュウジさんが料理を始めた理由と、料理することでどんな「力」を得ていくことができたかという話は、若い方にぜひ読んでほしいと思う。

 そして枝元なほみさんのエッセイには「作って、食べて、生きる」ことの意味と導きがやさしい言葉でギュッと詰まっている。必読です。

 最後に一点。本書にはマクロビオティックの考えも紹介されている。大人が、いろいろと食に関する基礎知識を身に付けた上で、自分の責任で実践するのは構わないけれど、十代のうちは肉も含めて幅広い食物を楽しく食べてほしいと私は思う。コラム内に「白い砂糖は使わず」とあるが、日本で一般的に販売されている白砂糖を食用にすることは何の問題もない。

 食事は人間の健康に深く関わることだけれども、どんなに健康的な食事を心がけていても、病気になるときはなる。これは避けがたいことだ。病気になったらいくら栄養バランスのいい食事をしても、それだけで病は治らない。病気を治すのは医療であることを忘れないでいてほしい。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。「暮らしと食」をテーマに執筆する。 ライフワークのひとつが日本各地の郷土食やローカルフードの研究 。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)『自炊力』(光文社新書)など。
Instagram:@hakuo416

最終更新:2022/03/19 17:00
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