コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

母の愚痴、ボケが進んだ父――「いい加減にしてくれよ」と親を叱る一人息子の憂鬱

2022/03/06 18:00
坂口鈴香(ライター)

「親が満足しているかどうかはわかりません。けれど、葬式代くらいは取っておきたいと言うので、入居費用の半分は僕が出してあげているし、文句はないだろうと思っています」

 父親は、入居してしばらくは自宅に戻りたいと言っていたが、もう諦めたのか、何も言わなくなった。「ボケが進んだのもあるんじゃないですかね」と木村さんは言うが、プロコンでは割り切れないものもあるのではないか。人間だもの。

 母親は今も木村さんに電話してきては愚痴をこぼす。それが、木村さんの憂鬱のタネだ。

「愚痴を言ってもどうしようもないのに。いつもは黙って聞いていますが、僕も疲れているときには寛容になれなくて、『いい加減にしてくれよ』と叱ってしまいます。銘柄ですか? 妻と違って、親の銘柄は子どもには選べないし、こっちも諦めるしかない」

 自虐的に言いながらも、木村さんや子どもたちが交代で両親のもとに通っているというので、銘柄やプロコンがすべてではないことは木村さんも十分わかっているのだ。

「孫なら無条件に優しい言葉もかけてやれますしね。両親も僕が行くよりも喜んでいますよ」

 親は老いるばかりだ。もはやその銘柄が成長することはない。

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坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2022/03/06 18:00
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