コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

母の愚痴、ボケが進んだ父――「いい加減にしてくれよ」と親を叱る一人息子の憂鬱

2022/03/06 18:00
坂口鈴香(ライター)
写真ACより

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

妻は銘柄で選んだ

 木村保和さん(仮名・56)はバツイチだ。勤務していた会社を早期退職して、今は投資で生計を立てている。木村さんの話を聞いていると、仕事柄なのか「銘柄」という単語が頻発する。

「前の妻とは30代のはじめに離婚しました。僕が妻という“銘柄”を見分ける目がなかったんだと思いますね。というか、もっと銘柄を成長させられると思っていたけれど、ダメだったということです」

 銘柄? 妻は株式投資のようなものだと言いたいのだろうか。

「マチュリティを過大評価していたんだと思います。自分に対しても、相手に対しても。お互い若かったですから」

 煙に巻かれるような会話に、こちらの頭が追い付かない。どういうことかと聞いてみると、社宅に住んでいたときに、木村さんの前妻は同僚の奥さんと大ゲンカして、夫たちを巻き込んだうえ、実家に帰ってしまったということらしかった。精神的に未熟で大人になり切れていなかったというのが離婚原因ということのようだ。

「とにかく、それで今の妻を選ぶときはプロコンで精査しましたよ。ちゃんと近所づきあいができるのかとか、子育てできそうかとか……」

 プロコンとは、メリットとデメリットという意味で、より良い選択をするために使う分析手法、とのことだ。つまり、今の妻の銘柄は優良だったというわけか。

「まあそうですね。妻にとっても僕という銘柄は悪くないと思いますよ。家計の予算管理、全部僕がやってあげるんだから、妻は何もしなくていい。使うだけです」

 夫婦の話が長くなった。ともかく今の家庭は木村さんの計画通りに進んでいるわけなのだが、親との関係になるとなかなか計画通りにはいかないようだ。木村さんは一人息子で首都圏に住み、両親は九州で暮らしている。

「以前から二人暮らしには不安があって、母もたびたび僕に電話をかけては不安を訴えていました。父は10年くらい前、あまりに足がふらつくというので医者に診てもらったら、神経系統の病気だと言われました。そうそう僕が様子を見に行くわけにもいかず、どうしたものかと思っていたんですが……」

 父親は症状を和らげる薬は飲んでいるが、言語や運動機能が次第に衰えていく。頭ははっきりしているだけに、父親ももどかしい思いをしているようだ。

「これで母まで病気をしたり、介護が必要になったりすると共倒れになってしまう。だから、母がまだしっかりしているうちに、二人で老人ホームに入ってほしいとずっと言っていたんですが、父がなかなかウンと言ってくれませんでした」

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