女性ボディビルダーが陥ったジェンダーの皮肉/肥満や女性に向けられる嘲笑/「自分の体は自分のもの」を知る2冊
保田 趣きは異なりますが、「自分の身体をジャッジするのは自分」という信念を伝える本として、米国女性文筆家のエッセイ『わたしの体に呪いをかけるな』(リンディ・ウェスト著、金井真弓・訳、双葉社)を挙げたいです。
A子 Huluでシリーズドラマ化された『Shrill』の原作ですね。ドラマはシーズン3まで製作され人気を博していますが、原作も米国でベストセラーになっているんですね。
保田 コメディを愛し、コメディアンとして表に立つこともあった著者が半生を振り返る自伝ですが、同時に肥満や女性に向けられる根拠のない嘲笑の視線を、怒りを込めながらユーモアで力強く振り払うエッセイでもあります。本作が書かれていたのは2016年、6年ほど前ですね。
A子 日本と米国では状況が違いますが、6年前は今より「太っている=痩せるべき」という観念が強かったかも。実際BMIなどはあくまでひとつの指標であって、肥満と不健康は必ず結びつくものでもないんですよね。
保田 著者は、上司が肥満を揶揄した記事を掲載した時、「ハロー!私は太っています」という題で反論を同じ媒体に載せたり、テレビ番組で討論したり、匿名で中傷した男性とラジオで話したりと、勇敢に波風を立てる女性。その裏にある信念が綴られています。
A子 矢面に立ち続けている人なんですね。このSNS隆盛期に最前線に立つ人って、相当強い人だろうと思われがちですが……。
保田 エッセイを読むと、彼女は特別に強いわけではない。自身の弱さや間違いもオープンにしています。ただ「いい仕事をする」「自分の選択が未来の社会を築く」ことに誠実で、自覚的なんだと感じました。実際世論も変えてきた彼女の「世界はゆっくりだが必ず変わる」という手応えはきれいごとではなく、実感として伝わってきます。女性全体を励ます1冊です。