カルチャー
【サイジョの本棚・打ち合わせ編】
女性ボディビルダーが陥ったジェンダーの皮肉/肥満や女性に向けられる嘲笑/「自分の体は自分のもの」を知る2冊
2022/03/05 14:00
保田 U野は初めて自覚した体への愛情や勝利への願望と、競技ルールの間で葛藤しつつ、進む道を模索していきます。葛藤がなぜか常にちょっとコミカルなのも本作の魅力です。また、U野の外見の変化を巡る周囲の反応がリアル。当初、彼女は筋トレによって得られる強さや集中する時間を楽しんでいたのに、周囲から「痩せて美しくなった=彼氏ができた?」と思われたり、「女性は大変だね」と声をかけられたりする。
A子 それは、現実でもありえますね……。「美」が目的ではなく、単に上達や楽しさを求めて運動する女性も多くいるのに、「美のための努力」みたいな言葉にまとめられると、違和感が残ったりします。
保田 そういう悪意のないバイアスって多くの人が経験しているので、ボディビル自体は未知の世界でも共感できるんですよね。声を上げるほどでもないけど、消化しにくい居心地の悪さの切り取り方が秀逸でした。加えてU野が「スポーティーにしろセクシーにしろ(略)この世に物差しは幾つもあっていい」と、美しさのためにやっている人も否定しているわけではない点も現代的です。
A子 美しくあるためでも、楽しむためでも、動機自体に上下はないですもんね。
保田 自分の決めた“物差し”で戦う人には共感こそすれ、対立軸には置かないフラットな視点が読みやすかったです。終盤、U野が一見同じ場所に戻ったようで、螺旋階段を上がったように別の位置にあることをさりげなく示すラストも鮮やかで、読後に爽快感がある一篇です!