カルチャー
【サイジョの本棚・打ち合わせ編】

シスターフッドに支えられながら道を切り開いた女性を描く、『らんたん』『マリメッコの救世主』

2021/12/25 13:30
保田夏子

保田 次に紹介する本は『マリメッコの救世主 キルスティ・パーッカネンの物語』(ウッラーマイヤ・パーヴィライネン著、セルボ貴子・訳、祥伝社)です。今では日本でも人気の高いフィンランドのブランド「マリメッコ」を、世界的な人気ブランドに押し上げた女性経営者キルスティ・パーッカネンの生涯を取材した評伝です。

A子 マリメッコといえば北欧の伝統的ブランドというイメージがありますが、キルスティが関わる前は倒産目前だったことは知りませんでした。彼女がマリメッコを私財で買い取り、経営に携わったのは60代からなんですね。

保田 その前には、女性だけの広告代理店を立ち上げています。1960年代当時はフィンランドでも、女性が企画した仕事を顧客には「男性の仕事」と伝えなければ断られてしまうような時代だったとキルスティは語っています。

A子 そんな中で女性だけの会社を成功させ、世間の大きな注目を集めたキルスティは、当時のフィンランドにおいて、女性に対する意識を変えた一人なのかもしれません。

保田 少女・青年期にメディアを通して彼女を知り、勇気づけられた人々の話も盛り込まれています。次の世代に大きな影響を与えたキルスティも、本作を通読すると、言うことが矛盾していたり、今となっては肯定しにくい面もそのまま描かれていたりします。けれども、欠点はあっても誰よりも情熱を持って、人生を懸けて仕事を愛した彼女が台風の目となり、周囲を惹きつけ、大きな仕事を成し得たことが伝わります。

A子 後世に名を残すような人々だからといって、パーフェクトな人間ではない場合がほとんどですよね。

保田 男女限らず、無傷であることが重視される昨今ですが、欠点もなく一生間違いも犯さない人なんていない。それでも、やはり最終的には、人はどれだけ間違ったかではなく、何を創り上げ、愛し、育てたかが残り、それが周囲の人や後世に希望をつないでくれるのだと思いました。
(保田夏子)

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