サイゾーウーマン芸能韓流『サバハ』に見る韓国人の宗教的心性 芸能 [連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』 『イカゲーム』のイ・ジョンジェ主演! エセ宗教問題を扱ったオカルト・ミステリー『サバハ』に見る韓国人の宗教的心性 2021/10/29 19:00 崔盛旭(チェ・ソンウク) 崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』 『サバハ』 実在の人物をモデルとしたパク・ウンジェ牧師 <物語> ある田舎の村に双子の姉妹が生まれる。足にかまれた傷を負った妹のグムファ(イ・ジェイン)と、グムファの足をかみちぎった姉の《それ》だ。《それ》は長生きしないとみられたが、16年たっても、小屋に鎖でつながれながら生きていた。 一方、新興宗教の不正を捜査している「極東宗教問題研究所」のパク・ウンジェ牧師(イ・ジョンジェ)は、“鹿野園”なる新興宗教団体を調べるために部下のコ・ヨセフ(イ・デビッド)を潜入させる。そんな中、トンネルの壁の中から女子中学生の遺体が見つかり、殺人の容疑者としてキム・チョルチン(チ・スンヒョン)が浮上、パク牧師は事件と鹿野園がつながっていると直感する。間もなくキムは自殺、そして彼が自殺直前に会っていた男チョン・ナハン(パク・ジョンミン)が現れる。チョンについて調べ始めたパク牧師は、彼がグムファを探していることを知る。徐々に明かされる鹿野園の謎。パク牧師はついに衝撃的なその実態と向き合うことになる。 エセ宗教団体の最も深刻な問題は、詐欺まがいの布教活動にとどまらず、最悪の場合、人命まで奪うような犯罪も起こしかねない点にある。映画では日本のオウム真理教によるサリン事件について言及があるが、韓国でも教祖や信者32人が集団自殺をした「五大洋事件」(先述のコラム参照)など、社会を揺るがせた事件が幾度も発生している。こうした事件を防ぐためには、「神を自称する者」を疑い、本質を見抜くべきだという、当たり前だが忘れがちな注意を本作は喚起しているといえるだろう。 実際イ・ジョンジェが演じるパク牧師は、国際宗教問題研究所の所長を務めながら「似而非」の不正や犯罪の実態調査に尽力し、エセ団体の信者に殺害された実在の人物タク・ミョンファン牧師をモデルにしており、本作は「似而非」がまん延する韓国の現実を反映した数少ないオカルト・ミステリーとして、230万人以上を動員するヒット作となった。 世界的な舞踊家であり俳優としても活躍する田中泯がチベット仏教の高僧役で出演しているが、日本では一般公開されず、現在はNetflixで見ることができる。タイトルの「サバハ(娑婆訶)」とは仏教用語で、「円満な成就」を意味するという。 372年に高句麗に伝来したという長い歴史を持つ仏教は、エセの歴史も古く、またエセ仏教は儒教や道教、キリスト教といった既成宗教に朝鮮半島の民間信仰である巫俗(ムソク)までを都合よくミックスしているため、その実態を理解するのは非常にややこしい。そこで今回のコラムでは、本作のキーマンである“鹿野園”(東方教)の教祖キム・ジェソクを中心に、現代における仏教系「似而非」の存在感を見ていこう。 次のページ 『サバハ』 “「社会奉仕」を利用した宗教家”で思い出される、あの政治スキャンダルの黒幕 前のページ12345次のページ 楽天 セブンネット 「カルト」はすぐ隣に オウムに引き寄せられた若者たち 関連記事 韓国映画『アシュラ』、公開から5年で突如話題に!? 物語とそっくりの疑惑が浮上した、韓国政治のいま韓国サイコホラーアニメ『整形水』が描く、“整形大国”になった儒教社会の落とし穴韓国映画『シュリ』『JSA』 から『白頭山大噴火』まで! 映画から南北関係の変化を見る実在の事件を忠実に描いた人気韓国映画『殺人の追憶』、ポン・ジュノが劇中にちりばめた“本当の犯人”の存在自社の不正を暴く“高卒女子”の活躍を描いた韓国映画『サムジンカンパニー1995』、より深く理解する4つのポイント