マルチ商法にハマる女の“欲望”とは? 700万円もの借金を背負った著者が見た、マルチの闇と気味悪さ
これまでの人間関係を焼き払っていくマルチ商法に、正直線引きのよくわからない疑似科学的なもの。育児周りのアレコレや、美容に健康、環境問題……。さまざまなジャンルに怪しいものが限りなく混ざり合い、渡る世間は沼ばかり。秋の夜長に本を読もう! という呼びかけに便乗し、当連載ではぜひ「沼をめぐる物語」を推していきたいと思います。今回セレクトした3冊で紡がれる物語は、誰もが無関係の異次元ではありません。もしかしたら、明日の自分の姿かも……。
女がマルチにハマる理由。承認欲求肥大化時代に読みたい一冊
マルチ商法とスピリチュアル商法は、双子のようによく似てる。小説『マルチの子』(西尾潤/徳間書店)を読み、これまでも耳にしていたマルチ商法の闇をじっくり追体験させられると同時に、それをしみじみ感じました。
劣等感や孤独や不安。なかなか得られない自己肯定感。そして今の時代、大いに刺激される承認欲求。多くの人の抱えるそうした闇を絶妙に料理して、魂を奪いにやってくる。
本作の主人公・真瑠子は地味で目立たない、独身女性。それぞれの才覚で上手に生きる姉妹に囲まれ、家庭内でも安らげず孤独や苛まれていたところ、たまたま出会ったマルチの世界で持ち上げられ、何者かになりたい気持ちが煽られていきます。
大規模なイベントのステージでスポットがあたったり、マルチ雑誌でインタビューさせたり、会員からは「今注目の!」と羨望の眼差しを向けられたり。そしてドル箱イケメンプレイヤー(あくまでマルチ界隈というのがミソ)から目をかけられる、優越感。日本全国に同士はいるものの、閉ざされた世界で繰り広げられている特殊な感じは、これまで聞いたスピリチュアル教祖様に振り回される信者たちのそれと、そっくりじゃあないですか。傍からみると滑稽で悲しくても、当人たちは一生懸命なところも、シンクロしまくり。そして華やかに見える水面下で、悲しいかな夢ごごちになりきれない、懐事情も……。
社会から転落していく物語は宮部みゆきの代表作でもある『火車』など数あれど、マルチ商法という舞台の気味悪さは格別でした。嘘の多さと比例して、ポジティブ&クリーンなイメージを前面に押し出してくる点が、実に薄気味悪い!
タイトルコールは、物語ラストに現れます。マルチの子とは何なのか。冴えないハズだった主人公の本当の武器とは。作者のデビュー作『愚か者の身分』は社会からつまはじきにされてしまった人たちが、短絡的な思考から落ちていくミステリーでしたが、本作は純粋な気持ちが沼の養分となってしまうという切なさが漂っています。
本作は、著者が実際にマルチにハマり、700万円もの借金を背負ってしまった体験から描かれているのだとか。さらに詳しい話は、トークイベントで聴くことができますので、マルチ沼にご興味のある方は乞うご期待!
トークイベント「呪われ注意報:『マルチの子』作者がアノ世界の“表と裏”、明かします」
開催日:10月3日(日)
時間:15時開演(14時半開場)/17時終演予定
場所:LIVE STUDIO LODGE(ライブスタジオ・ロッジ) 東京都渋谷区代々木1-30-1 代々木パークビルB1
料金:アーカイブ配信付き/1,800円、アーカイブ配信なし/1,300円(どちらもワンドリンク制)