コラム
オンナ万引きGメン日誌

「このまま、お前の葬式をやってやりたいくらいだよ」喪服姿の老女、“身も凍る万引きの言い訳”とは

2021/08/28 16:00
澄江(保安員)

 当日の現場は、東京の外れに位置する大型スーパーT。大きな霊園が近くにあるため、お盆期間中はお墓参りグッズの特設コーナーが設置され、出入口脇にはお供え用の生花が値段別に並びます。この日の勤務は、午前10時から18時まで。店長不在のため、どことなくさかなクンに似た副店長に挨拶を済ませて現場に入ると、1時間も経たないうちに目を引く不審者が店内に入ってきました。一見して、70歳くらいでしょうか。赤茶色のカーリーヘアと白塗りの顔に真っ赤な口紅が印象的な喪服姿の老女です。

(あのおばあちゃん、やる気バリバリね)

 老婆の姿が目に入った瞬間、その顔つきを見て犯行に至ることを確信しました。どう説明したらいいのかわかりませんが、万引きする人の顔、そのものだったのです。

 店内における行動を見守れば、店に入ってすぐの青果売場でマスクメロンと巨峰、それに梨をカート上のカゴに入れた老女は、すぐそばにあるお盆の特設コーナーで足を止めました。そこで落雁や最中、羊羹、線香、ジェットライターなどをカゴに入れると、それらを整理しながら酒売場の通路に入り、缶ビールとカップ酒を2本ずつカゴに追加して出口へと向かって歩いていきます。

(このままカゴヌケするつもりなのかしら)

 いつ出られても対応できるように間合いを詰めると、出入口脇に並ぶ生花売場で立ち止まった老女は、一番値の張る花束(1対、3,000円)を花桶から抜き取りました。やけに周囲を気にしてからまもなく、生花を片手に持ちながらカートを押す老女が早足で外に出たので、その後を追って声をかけます。

「お店の者です。そのお花、持っていったらダメですよ」
「ひっつ!」
「カゴの中のモノも、お支払されてないですよね。事務所でお支払いいただけますか」
「いや、レジで払いますから、大丈夫です。あたし、どうしちゃったのか、うっかりしちゃって。ごめんなさい……」

 そう誤魔化すと、カートを回して店内に戻ろうとするので、カートを押さえながら改めて事務所への動向を求めます。

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