「自分よりやせてるか・太ってるか」ジャッジ地獄/どういう「おばさん」でありたい?/男の弱音って……【サイ女の本棚】
編集A 自分で自分に呪いをかけるのは、女性にもあること。特に多いのは、「やせていなくては」問題。
保田 あるね! でも、「そもそもなぜやせないといけないと思ってるのか?」と根本に立ち返らせてくれる本が、『ファットガールをめぐる13の物語』(モナ・アワド著、加藤有佳織・日野原慶訳、書肆侃侃房)。自他共に認める“ファットガール”だったエリザベスが、少女から社会人になるまでを13編に切り取った連作短編集で、いくつかの仕事や恋愛を経ながらダイエットに成功して結婚して……。
編集A 2016年のギラー賞(カナダの権威ある文学賞)にノミネートされた本なんだね。そのあらすじを聞くと「太った子が見事ダイエットに成功してハッピーエンド!」な話っぽいけど……。
保田 ちょっと違うんだ。主人公エリザベスは、自分自身に「太っている女=人から軽く扱われても仕方ない存在」っていう“呪い”をかけているように私は読んだ。少女時代の友達付き合いや恋愛に彼女の自尊心の低さが垣間見えるんだけど、やせたら高まるのかっていうと、これが全然回復しない。むしろ周りの女性に対して、「自分よりやせてるか/太ってるか」「何を食べているか」のジャッジ地獄にはまってたり、「太っているのに幸福を手に入れた(ように見える)女」の存在が心に引っかかって仕方なかったり。
編集A 最近は「ボディポジティブ」といって、ありのままの体を愛そうという考え方もあるよね。その第一歩は「他人の目を意識する限り、自分の体は居心地が悪い」って認識することだと思う。
保田 そうなの。思い通りにならない自分の体と向き合いながら、延々傷つき続ける主人公を見てると、そもそも人によって太りやすさもやせやすさも違うのに「太ってる=自己管理できてない」と一律に捉える世界のほうがおかしくない? って思わされるんだよ。
編集A 標準体重って、あくまで標準であって、個人の適正体重とは違う場合もあるっていうもんね。
保田 太ってたけど、気の合う親友とマックフルーリー食べながらぐだぐだ笑い合ってた学生時代への嫌悪まじりの憧憬が、年を重ねるごとに甘く輝いていくさまがすごく切ない。多様性を認められる時代だからこそ、どういう体を目指すのかという問題は現代を生きる私たちにとって極めてリアル。あと、余談だけど、試着室のシーンが頻出しているのが楽しい。
編集A 確かに試着室って、「自分の理想の外見」と「現実の容姿」が交錯する象徴的な場所かも。
保田 決して全部が深刻な話ではなくて、試着室での店員の強引な「すっごくお似合いですよー(似合ってない)」の攻防戦とか、「わかるわー」ってくすっと笑えるシーンもたくさんあるので、ぜひ読んでほしいよ!