世界中、所変われど……変わらない!? キューバにパレスチナ、各国の食事作りの“手伝い”をつづる『世界の台所探検』
時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!
今月の1冊:『世界の台所探検 料理から暮らしと社会が見える』岡根谷実里 著
リュテニツァなるものを、この本で初めて知った。
ブルガリアでは「ヨーグルトとリュテニツァがない家はない!」とまで言われるそうで、焼いた赤パプリカとトマトが主材料となるペースト。そのままチーズと一緒にパンに載せて食べたり、ケチャップのように使ったりするらしい。
リュテニツァを手作りする人は多く、赤パプリカのシーズンである秋には庭先で大量に焼かれる光景があちこちで見られ、ブルガリアの風物詩のひとつでもあるのだとか。完成したら瓶詰にして、遠方に住む子どもに送る親御さんが多いという。このくだりを読んで私は、我が国における兵庫県の「イカナゴのくぎ煮」を思い出していた。
イカナゴは魚の一種で、兵庫県の海側の人々にとっては春を告げる存在だ。醤油と砂糖などで甘辛く煮た「くぎ煮」は郷土の味の大定番、離れて暮らす子どもに送る親御さんは多い。どこも変わらないなあ……と感じ、なんだかうれしくなった。
世界の人々の食と日常をテーマに旅を続ける著者の岡根谷実里(おかねや・みさと)さんは、大学在学中に国連インターシップに応募、ケニアで働く機会を得る。そこで自国と変わらぬ食卓のぬくもりを経験したことが現在の活動につながっている、とまえがきにある。
海外の食風景を伝える本は数多い。ありきたりなものも多いが、書店で本書をパラパラと読んでいたとき、以下の文が目に入って購入を決めた
「(現地では)料理以外のことをしている時間のほうが多い。近所の子どもたちと遊んだり、職場について行ったり、家の手伝いをしたり、ただただおしゃべりをして過ごしたり。その人たちの料理を、暮らしの一部として理解したいと思うからだ」
共感した。言うまでもなく食は社会とつながっているものだし、日常の家庭料理はその地の人々の歴史や嗜好、経済状況の凝縮形でもある。気候や風土との関係は言うまでもない。もちろん数日歩いたぐらいで他国の食文化とその背景など心から理解できるはずもないが、感じられることは多々ある。
旅をしてその地の食を感じたい、見聞を広めたいと願う者は、ただ食べるだけでなく、一秒でも多くその国の風に吹かれたいと願うもの。心の中で「うん、同感!」と叫びつつ、本書をレジに運んだ。