コラム
『おちょやん』解説
『おちょやん』成田凌演じる一平、執筆スランプで“盗作”!? 実は「全然自分で書いてない」“名脚本家”のガッカリすぎる史実
2021/05/08 17:00
名脚本家として世間から認知されていた渋谷ですが、逆に「名作を書かねばならない」というプレッシャーに悩む日々を送っていたようです。松竹新喜劇の主演俳優にして、脚本家という二足のワラジを履いた渋谷ですが、彼の役者としての後継者は藤山寛美でした。藤山は、ドラマでは前田旺志郎さんが演じている、松島寛治のモデルで、天才喜劇俳優といわれた人物です。女優・藤山直美さんのお父さんでもありますね。
一平と千代の夫婦が、まるで実の子どものようにかわいがっていた寛治ですが、史実でも渋谷と浪花夫妻には子どもがおらず、それゆえ藤山を養子にする計画が何度も持ち上がっては消えたそうです。ドラマでは千代に懐いている寛治ですが、史実では渋谷が藤山という俳優に執心を見せていたという色彩が強かったそうですよ。
しかし、脚本家としての自分の後継者には出会えていなかった渋谷は、劇団内に「文芸部」を設立。自分の脚本執筆作業を手伝わせるスタッフを4人ほど雇いました。彼らに脚本を提出させ、それらを添削・指導して実際に舞台にかけ、自分の後継者を育てるのが目的でした。
……しかし何時の頃からか、渋谷は普通に脚本を書くことができなくなってしまっていたようです。名脚本家といわれているわりに、現代のわれわれの多くが『おちょやん』放送まで、渋谷天外についてほぼ何も知らなかった理由は、渋谷の脚本が出版されていないからです。そして、その理由は渋谷本人が出版に消極的だったからです。渋谷いわく、文字で黙読するのに喜劇の脚本は適していない……、などがその表向きの理由でした。